天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

人新世の「資本論」 斎藤幸平

 第一印象は、日本の若い学者にこんな人がいて良かった。というもの。

 この本は新書版で、表紙にあるように昨年の新書大賞に輝いているのでよく売れたのだろう。が、話は深い。経済学そのものともいえる。なので、じっくり時間をかけて読んだ。あるいは、読み切るのに時間がかかった。

 昔、半世紀前、自分が学生だった頃、経済学といえば「近経」か「マル経」かと分類されていた(今もか?)。

 自分は政治学科だったこともあり、経済学はたいして勉強しなかった。じゃ他の何を勉強したのかというと、何もしなかった。しかるに卒業して就職して引退して、今やのほほんとしている。のほほんとしていていいのか?ということをこの本は問いかけてくる。

 マルクスの「資本論」は、もう古いという説があるが、実は「資本論」を出した後にもマルクスの研究論文がいくつもあって、それらを読み解くと現代に必要なことが書かれているというのが筋書きだが、問題は中身。

 地球の環境問題と一体の論点。現代社会の問題は、格差であり、地球温暖化を含めた環境問題であるが、問題の原点は資本主義。資本主義が新自由主義の名のもとに弱者の切り捨てをして来たことと環境問題は別々にしては解決策が見つからない。

 ガソリンエンジンの代わりに電気自動車を作れば、排気ガスが無くなるが、電気自動車の電池を作る過程でどれだけの二酸化炭素を排出するか、といった問題。グローバル企業は、人件費の安い国に進出して安い労働力でコストダウンしているが、その恩恵を被っているのはその製品を使う先進国の人々。安い労働力は、本来なら農業で自活していたはずのところ、工場労働者になることを余儀なくされる。

 途中省いて結論から言うと、資本家による企業では無くて、労働者による必要な物品の作成販売。労働者協業組合、いわゆるコモン。特にぜいたく品でなく、エッセンシャルな品物、ガス、水道、食料などは必要なだけ作る。自給自足が望ましい。資源のない国は、あるものを売ってないものを買う。

 コモンという概念は分かるが、実運用はどうなんだろう。資本家が儲かる仕組みの企業じゃなくて、市民による協同組合で物を作ったり必要なものを必要なだけ仕入れる。言葉ではわかるが、組織のリーダーが独占的な動きをした場合の歯止めをどうする等々難しい面がある。歩きながら考える態度は必要だが、例えば中華人民共和国成立後の人民公社はどうだったか。大躍進は、明らかに旗振り役の間違い、というか認識不足だった。

 コモンの運営がうまくいくには恐らく時間がかかる。時間がかかることに何か問題があるか?そのことで社会的弱者が救済されるのに時間がかかるとしたら、併せて弱者救済の制度を充実する。そういうことで時間がかかってもいいんじゃないか。

 民主主義は物事を決めるのに時間がかかる。もともと国民の幸福度の基準をGDPなどの指標に求めることが意味がない。というところにこの本は踏み込む。

 それにしても、この本に書いてあることを理解すれば、自民党に投票する人間はガクッと減ることと思う。