結構時間をかけて、じっくり読みました。斎藤幸平氏の本は3冊目ですが、彼の主張が分かりやすいのがこれ。
NHK出版によるもので、もともと「100分de名著」という番組で放送されたテキストを加筆修正、書下ろし分を含めて今年に入って出版された。
何が分かりやすいかというと、マルクスの「資本論」は古いと言う概念から脱して、今こそマルクスに学ぶべきという内容が分かりやすい。
マルクスと言う人は、元々共産主義者でもなんでもなく、資本主義の矛盾をどうしたら解決することができるかについて、あらゆる分野で研究した人で、「資本論」はその集大成というわけではなく、ある時点での研究論文のまとめというもの。まとめたのは彼自身ではなく、エンゲルス。それでマルクス、エンゲルスの資本論という形で出版された。しかしその後もマルクスの研究は続きその研究メモが数多く残されている。それらをMEGAと称してるらしい。
一応、各章のタイトルだけでもと思ったら、裏表紙に書かれているのでまずはそれ。
見にくいので、
はじめに 「資本論」と赤いインク
第1章 「商品」に振り回される私達
第2章 なぜ過労死は無くならないのか
第3章 イノベーションが「クソどうせもいい仕事を」を生む
第4章 緑の資本主義と言うおとぎ話
第5章 グッバイ・レーニン!
第6章 コミュニズムが不可能だなんて誰が言った?
あとがき 革命の時代に
私たちの生活は、お金で衣食住を購入して成り立っている。娯楽にもお金が必要。
思えば貨幣経済が始まって以来、現在のような社会への道が始まった。キングダムというアニメ(始皇帝の中華統一の時代)を見て、そう考えさせられるセリフがあった。このアニメは大変な歴史学習アニメだと思った。
お金があれば何でも手に入る社会になり、お金を儲ける仕組みが、より多くの資金(お金)を得るために何でも商品化して自己増殖する。これを容認しているのが資本主義。
その結果うまくもうけた組と儲けられなかった組が、勝ち組と負け組などと言われるようになり、競争社会の勝ち組と負け組となり、収入の格差が拡大した。
物が売れれば儲かるので、差し当たって生活に必須でないものも買いたくなるように広告して売りだす。
食料や生活費需品は本来適正な供給量が生産されるべきもの。食品の過剰生産は食品ロスであり、それを作る労働も過重労働だったりする。
分かっている人にとっては、何を今さらと思うだろうが、ここ数十年の日本の政治を見る限り、政治にかかわる人は何を判断基準にしているのか疑問。
鎖国していた江戸時代は、外国から何も買わなくても食べて行けた。飢饉のとき以外は自給自足できていたはず。それが今では自給率は40%くらいだそうで、輸入しなければ国民は飢える。
マルクスが色々研究したとはいえ、現代の問題に対する具体回答があるわけではない。
昔はマルクス経済学といえば、共産主義の論理で、共産主義国ソ連は崩壊したのだから共産主義はダメといったレッテルが貼られていた。が、マルクス学はそういうことではないことをこの本は説明してくれる。
資本主義の矛盾や欠点をどう問題解決してゆくか。”コモン”というあり方。共同管理の仕組みがそのカギである。しかしそれらしいことはかつて行われてきた。この本では、というかマルクスは、パリコミューンを短期間ではあったがひとつの成功例として見ていたらしい。
何を共同管理するかにより、その管理方法や公平性、効率性(求める必要があれば)を維持しながら人々が享受できる仕組みは違うだろう。だがその動きは出始めている。
エセ協同組合というのは今でもいくらでもある。そういうものではない「コモン」をどう実現してゆくか、現在進行形の社会科学的課題だと思われる。それにつけても日本の衰退は、一部事業者の利益に与した政権による失政の結果である。トリクルダウンなどはこの資本主義社会ではあり得ないことが、この本にも記されている。
世の中の矛盾や非合理が起きているそもそもの原因が資本主義にあることを教えてくれた。終わりに書いてあった彼の推奨本2冊は難しそうだけど読んでみたい。