天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「日本解体論」白井聡&望月衣塑子

 本のタイトルの意味するところは、今の日本はもう解体してしまって組み立て直した方がいいということを書いているのか、と思ったら「解体新書」の方の解体の意が意図されるところのようだ。即ち、日本という国をバラシてよく見てみようという感じ。

 国体論を書いた政治学者の白井聡氏と東京新聞の記者望月衣塑子氏の対談本。表紙の写真を見ると、おじさんと若い女性のように見えるが、望月さんの方が2歳年上。白井氏はうちの長男と同じ年で、大学学部が私の後輩にあたる。彼の著作は「永続敗戦論」と「国体論」を読んだので、その立ち位置は承知しているつもり。

 望月さんは、東京新聞の記者として政権の記者会見でズバズバするどい質問で追い詰めるので自民党の議員には嫌われている。最近Tictokでも色々と発信をしている。新聞社の記者という立場を離れて、ジャーナリストか社会活動家かと思わせる活躍ぶり。

第1章 77年目の分岐点

第2章 「政治的無知」がもたらす惨状

第3章 壊れて行くメディアと学問

第4章 癒着するメディアと権力

第5章 劣化する日本社会

第6章 国家による侵攻の衝撃

 第1章では、国体論にもあったように明治維新から敗戦までの77年と、敗戦から77年した2022年時点でまた日本が再建が必要な状態になっている。その分岐点にあるってことが縷々書かれている。

 第2章で言う「政治的無知」とは、ちゃんと学習しないでメディアに踊らされる若者を嘆く。私は民主主義には知性と行動が必要と思っているが、それとほぼ同様なことが例示しながら書かれている。

 第3章で、メディアの弱体化と学界もしかりと。例の菅による学術会議任命問題があるが、その出来事に対する学者の反応も情けないと。新聞記者と学者がそのように指摘している。望月氏も反省も含めながらと。

 第4章は、メディアは、売らんがために政治家や官僚からからネタを聞き出そうとする中で癒着が生じている。売るために世間を煽る記事を書いたり報道したりしている。

 台湾有事がありそうなことを煽って、防衛費増額を正当化するお手伝いをしている。

第5章では、「復興五輪」をめぐる情けない状況や、ウィシュマさんを殺した入管の問題、官僚主導の政治等について、メディアの責任を含めて論じている。

 ウイシュマさんは、来日前はスリランカで教師をしていた。そこで日本人の子弟が礼儀正しくて優秀なのを見て、日本とはどんな国なのか勉強したいという目的で留学生として来日した。まず日本語学校に通っているときに同じスリランカ人の男性と知り合い、DV被害にあう。警察に相談したが、警察ではマニュアルに従ったDV対応をせずに外国人であることから入管に送ってしまった。

 ここで知ったのは、入管がなぜ警察と別に人を拘束する仕組みになっているのかというと、敗戦前の特高警察の名残だとか。入管法の前身とされる「外登令」外国人登録令は日本国憲法が制定される以前の、旧憲法下でだされたもの。日本の事情をよく知らないGHQが、在日朝鮮人を取り締まる登録令を認めてしまった。

 外国人の管理組織を作り直す必要があるが、それには看板の架け替えだけでなく政権交代が必要だと。

第6章は、ロシアのウクライナ侵攻から論じられていて、日ごろ私も思っていたことが指摘されている。その部分は;

 『日本政府は今、ウクライナの避難民を受け入れています。でも、これまでアフガニスタンミャンマー。シリアなどから逃げてきた人たちに対して、難民認定をほとんど出さないなど、ずっと冷たい対応をしてきました。なので、支援活動をしてきた弁護士さんとかは納得できないものを感じていると思います。メディアの報道の違いもあるのでしょうが、同じ避難民なのにどうしてでしょうか。白人至上主義的なものを疑ってしまします。』

 これ全く同感。人種差別もいいとこだと思っています。

 それとロシアってどういう国か。白井氏は若いころロシアに留学もして、ロシア通だった。ロシアに経済制裁は通じないという、その根拠は、ロシアの過程では都市生活者でも郊外に小屋(ダーチャ)と畑を持ち、自給する習慣があるとか。産業は、地下資源を掘り出すこと以外大したものがないとか。

 

 以上、現在の日本を解体してみると:

・敗戦後、天皇の代わりにGHQアメリカが位置し政治家(自民党)はその奴隷となった。(p53;[白井]奴隷根性が自民党のDNAですよ。要するに戦前のファシストが、アメリカによって免罪してもらって復権してできた政党だから。)

 岸信介A級戦犯として絞首刑になるべきものだったが、言葉巧みにマッカーサーに取り入って命拾いをした。言葉巧みの中身は、731部隊の研究記録だったり、原爆投下直後に医師団を送って、被爆者の治療でなく影響度合いを調べた報告書(ご丁寧にアメリカ向けに英訳している)だったりだ。要するに国を売った売国奴だ。その孫が安倍晋三だったし、その流れは今も続いている。

・官僚国家であること。政権が変っても官僚組織は変わらない。実務は官僚に任せるほかない。(P92;[白井]安倍体制の本質は官僚による極めて恣意的、専制的な政治だったと思います。官邸主導とか言われていたけれども、安倍さんに主導できるわけがない。それこそ経産官僚の今井尚哉秘書官兼補佐官におんぶにだっこだったわけでしょう。)(p93:[白井]結局のところ日本の民主主義を機能不全にしているのは官僚なのですよ。)

・メディアの問題。国民の反応はメディアの報道を通じて形作られる。何を流して何を流さないか、政権に迎合したものや、売れるために煽る記事を流すもの。こんなのばかりじゃ国民はまともな反応ができない。

・国民の知性の問題。政治的無知を蔓延させているのもメディアのせいかもしれない。

 政治で言えば、このところの野党も情けないのが多い。(裏表紙;[望月]「批判より対策」は腰抜けのいいわけ よき明日のためには批判こそが必要だ」立憲民主党も泉代表になってからからっきしダメだ。国民民主はもってのほか。”立憲はれいわのケンカを見習え”というくだりがあるとおり、れいわはまだ元気がある。大石明子議員は、まやかしの維新をやっつけるために戦うと明言している。大阪出身の彼女は維新のまやかしをよく知っているのだ。

 で、表紙にある「崩壊が加速するこの国に希望はあるのか」とある問いかけには、少しだが「希望はある」と中に書かれている。コロナ対策でまともだった地方の首長がいる。声をあげたSEAL'Sの若者がいる。

 希望的観測ではないかという気がしないでもないが、この本の校了目前に安倍銃撃事件が起きている。これについても自民党は政治利用する、と白井氏は言う。安倍は単なる御輿だったのであり、死んでまでも御輿になっていると辛辣。

 しかしこうして声を上げているのは一人じゃない。白井氏も孤独じゃないと感じ、この望月氏との対談で彼女の姿勢と行動を評価している。本のなかではお互いに違うと思うことは違うとはっきり言っているところがすがすがしい。

 こういう本を出す人たちがいることが希望だろう。