この本をどこで知ったか。東京新聞の本の広告欄だったと思う。東京新聞には良い本がよく紹介されている。
著者は、私の父親より1歳若いくらいの父親の世代。経済学者だがイギリスで教鞭を取っていた人。この本は1999年の初版。この時点で2050年の日本をこのままでは没落すると予見している。今のところその通りになっている。
どうして没落すると見ているのか。人口論的な視点と、教育論的な視点から、このままでは没落するとしている。
教育論とは、歴史認識の問題が大きい。
日本は敗戦を境に、アジアへ侵略する軍国主義から、民主主義の国に生まれ変わった。ことになっている。敗戦を境に、教育がすっかり変わる。全体主義を推進するような教育勅語は廃止となり、民主主義を教えることになるが、教える側の教師は戦前の教育で育った。
戦後の日本をリードしてきたのは、戦前の教育を受けた世代であり、政治に至っては戦争責任を取るべき人間が、米国と折り合いをつけることで生き残った人間が権力者然として今に至る。今はその世襲政治家と政治屋の時代。
戦後の教育は、企業に役に立つ人間を育てることを主眼として、生徒の方も民主主義を個人主義と混同して利己的に自分の生活が成り立つことを第一に行動する。
その結果、敗戦後、朝鮮戦争、ベトナム戦争と続く軍事需要が終わりバブルも崩壊すると打つ手もなく、新自由主義と言う名のもとに金持ちグループの支配が促進されて格差が拡大した。
森嶋氏は、東北アジア共同体の提起をしている。日中朝に台湾。ヨーロッパのEUに匹敵するものだ。しかして、戦争の反省をきっちりできていない日本は、いまだに隣国と仲よくできない。いつの間にか、賃金レベルも韓国の方が高くなっているという。
1990年代に森嶋氏が見た通りの道を日本はたどっている。今回の選挙の投票率の低さを見ても、政治に無関心な層が多い。
日本のことは集団的独裁と分析している。これはなるほど、と思った。無謀な戦争を開始したのは、東条英機が戦争推進したいグループを抑えきれず、グループの意向を受けてふるまう有能な実務官僚のごとくだった。天皇も同じく抑えきれていない。
最近の情勢では、憲法を無視するような独裁政権は、決してカリスマ的な独裁者によるものではない。日本会議や軍需産業で儲かる企業グループ、はたまた原発で儲かるグループの意向を受けて、無能な二世政治家が権力者然としているだけ。
森嶋氏いわく「政治が悪いから国民は無気力であり、国民が無気力だから政治は悪いままでおれるのだ。」ズバリそうでしょう。
この本の視点は幅広い。単に経済学ではなく、歴史認識にも物申す形で「新しい歴史教科書を作る会」は間違っているとはっきり言う。
この本で触れていないのは、インターネットにより情報発信が容易になっていること。逆に、不良な情報に惑わされることも多い世の中になっている。心あれば、もっと学習して発信し続けることで、少しはよくなるか。自公維新以外の野党政治家の中には、まっとうな政治家がまだまだいることに期待するし、政治の話を皆ができるような雰囲気を作ってゆくことも需要だろう。日本没落を手をこまねいていることはない。
「日本」に拘ることはない。氏の提起するような、アジア共同体や世界の中で日本が有意な存在になることが没落から逃れる道と思う。
森嶋氏はロンドンが拠点だっただけに、かくも客観的に日本を見ることが出来ていたのだろう。孫たちには外で学ぶ機会を与えられたらと思う。