マンガ 日本人と天皇 雁屋哲
マンガと言っても侮れない。天皇制について、認識を新たにしました。書いた人は雁屋哲という人で、帯によると「美味しんぼ」という漫画を書いた人。美味しんぼは、竜泉寺温泉のリラクゼーションルームに並んでいたので、チラ見したことがあるが、日本各地の食べ物を調べ上げて、それを材料にマンガの物語にしている。よくまあ詳しく調べているもんだという感想を持ったが、その雁屋氏が天皇を調べた結果の集約がこの本になった。109冊に及ぶ文献に目を通している。筆頭は「日本書紀」と「古事記」だ。
帯の表に、「天皇交代の今・・・」とあるが、最初に出たのが2000年だそう。2000年と言うと昭和が終わり、平成の時代になってから昭和を振り帰って書いたものだろう。そして2019年、平成も終わるときにこの増補版が出ている。内容は帯の裏に項目が列挙されている。
思い切りまとめると、近代天皇制は明治維新以降日本の敗戦まで、明治憲法下の天皇制で、それ以前は天皇家は、武家の大将に征夷大将軍という位を授ける、武家を権威づける役割でしかなく、政務に関わることが許されなかった。
それが、明治維新となり薩長の下級武士が政治を行うために、当時16歳の天皇を引っ張り出して「現人神」という神話を教育勅語を定めて日本の国民の意識に植え付けた。その天皇に様々な指揮命令を言わせることで、軍国主義によるアジアへの領土拡大を進めてきた。
満州事変をきっかけにした日中戦争は、当初日露戦争で得た満州鉄道を護衛する役割の関東軍の勇み足で始まった。天皇の命令ではなかったが、満州国建設に至る結果が出ると天皇はこれを追認して、軍部は勝てば許され、識者は栄達を得られるというので、更なる拡張路線を歩む。
その結果、物量の違いで勝ち目がないと見込まれた対米戦争に突っ走る。日本の軍隊は、日露戦争で兵隊の命を軽んじるような作戦で形の上で勝利宣言したことから、精神主義で何事も進める。その頂点に「現人神」である天皇がいた。
昭和天皇は、敗戦となってから本当は平和主義者だったと言うが、勝っているときは軍部を容認している。
敗戦となったときには、天皇はマッカーサーと直接の交渉を行い、自らの地位を「象徴天皇」という形で確保する。天皇に戦争責任を問うて処刑でもしたら日本が混乱するというようなことが切り札だった。
あるいは、天皇制を残すことで日本が米軍基地を提供するという提案をしている。
日本国民は戦前に天皇を「神」としてあがめる教育を受けて育ち、敗戦後も「象徴天皇」として天皇の存在が残っているので、今でも正月に一般参賀などでありがたがって皇居に集まったりしている。
この構造が残っている限り、日本の政権取得したものは、必要があれば天皇の権威を利用して独裁的な振る舞いを起こす下地が残っているのだ、と筆者は言う。
ズバリ言えば、天皇制が「象徴天皇」であれ残っていることで、戦前の意識が残っているので、天皇制をなくすことが出来なければ明日の日本は無い。という論調で終わる。
過激なようだが、史実と事実に基づいた論旨の展開なので、とても説得力がある。
徳川家の末裔が、一般ピープルとして生活しているように、元をたどればその昔権力を握ったことのある一豪族の末裔は、敗戦後一般ピープルになってもおかしくない。昭和天皇が色々画策して、命があっただけでも良かったと思うべきでは。
戦後改めて戦争責任について問われた昭和天皇は、戦争責任のことを「言葉のあや」としてとぼけるだけで、まともに答えなかった由。真摯に反省していなかったことが分かる。
「日本書紀」は天皇家が自らの家系を権威づけるたもに、数十年かけて書き記した物語(神話)だというので、現代語訳を読んでみる必要があるかも。筆者もそれを推奨している。
先の大戦で同盟国だったドイツのヒトラーは悪行の責任を取らされるのが自明であるので自殺したし、イタリアの独裁者ムッソリーニは処刑されている。しかるに日本は、軍部独裁体制の頂点にいた天皇が「象徴天皇」として生き残り、A級戦犯の生き残りが総理大臣を行う国、アメリカの属国として現在に至る。
沖縄の基地問題が解決しないのもルーツはこうした問題がある。
筆者は憲法第1条をなくして、天皇制を廃止しないと日本は変われないと言う。
前回読んだ森嶋通夫氏の説の通り、集団的独裁体制が日本没落の要因とすれば、お飾りの頂点にいる天皇制をなくすことが、日本を改善するもう一つの切り口かもしれない。がしかし、憲法改正論議は今じゃない。
日本の民主主義は、ネットで変わるかもしれない。という望みがある。端的な例が、選挙に落ちた石原伸晃を内閣官房参与にした問題に、国民からネットで大きなブーイングが起こり、雇用調整助成金の受け取り問題もあり、辞任に追い込んだ。
コロナの給付金を半分クーポンにするという問題も、世論に負けて実質ひっこめた。
先の衆議院選挙では、自公が過半数を維持したとはいえ、山本太郎氏が国会に戻りれいわ新選組で初当選した大石あきこ議員はすごい。こうした動きが進み、若い人はこの漫画を手にすることで少しは政治に問題意識を持つことを期待したい。