天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

人間の条件1942 劉震雲

 誰が中国の飢餓難民を救ったかーという副題が付いていて、誰かというと日本軍だった。新聞広告に出ていたのが目にとまり即注文して、新しい本は鮮度のいいうちにと読んでみた。21016年1月15日初版の本だ。 この1942年というと日中戦争の真っ最中。この年、中国の河南省では干ばつに見まわれ、その後にはイナゴの大量発生で作物が根こそぎやられてしまった。大量の難民が出た。河南省の3000万の民が流浪に迷い、300万人(一説には500万人)の餓死者が出た出来事だ。

時の為政者は蒋介石で、このころは重慶を首都としていた。戦地が拡大しており、彼にとってはこの天災よりも重大な問題を抱えて、できればこの状況を知らぬふりで通したかったが、アメリカ人のジャーナリストによって事を明らかにされてしまう。そこで救済の食料を放出するが、地方の役人により途中で納税代わりに没収されたり、難民の口に入るものはほんのわずかしかなかった。
 物語は、ルポルタージュ小説と映画の脚本の二部構成になっており、被災地の人々が地主も小作人も難民となって、土地を捨てて逃散してゆく様子が生々しく描かれている。
 結局この人たちは、日本軍が食料を放出したことで助かった。これは当時ここに攻撃してきた日本軍の人道主義的な行為かというと、そうではなく人々を味方にするための作戦だった。飢餓状態の人たちは、生き延びるために日本に協力をした。食べるためなら日本軍も国民党も共産党も関係ないというのが実態だった。
 この本のテーマは、抗日でもその逆でもなく、中国の最下層にある人々に対する政府のスタンスにある。結びの文章で、昨年戦争勝利70年記念の軍事パレードが華々しく行われている一方で、北京で蔑まれながら働いている出稼ぎ農民に「また日本軍が攻撃してきたらどうするか」という質問をしたら、
「前線に行くのに戸籍の制限は無いのか?おら、農村の戸籍だ。前線に行くのも北京や上海の戸籍が優先じゃないのか?おら、幹部じゃねえ、党員でもねえ、ただの下っ端の農民だ。それでも前線に行けるのか?死んだら命の値段は同じかい?」と答えて話題になったとか。
 中国の格差は広がるばかりで、底辺にある人たちには、戦争もオリンピックも関係ない。春節で、たくさんの中国からの旅行客が日本に来ている。そういう人たちも増えるが、さらに多くの農村戸籍のひとたちがいる。これからどうなるのだろう。この本は中国のそうした実情を世の中に知らしめている。