台湾海峡一九四九
台湾の龍應台さんの著作。日中戦争が終わり、国共内戦を経て蒋介石が台湾に撤退し、1949年に共産党による中華人民共和国建国までの間に、戦争に巻き込まれた庶民がどのように命を失い、あるいは生きのびてきたかをインタビューをベースに書かれている。
龍さんは、台湾ではいわゆる外省人と呼ばれる人達で、まさに1949年当時国民党の一派または道連れとして台湾に移り住んだグループに属する。
我々日本人は、おおまかな歴史の流れだけは承知しているが、国が分裂するときに何が起こっていたかについては知るすべもなく、知ろうともしていなかったのではないだろうか。
第二次世界大戦といわれた戦争のあとに、東西、あるいは南北に分裂したのは、ドイツ、ベトナム、朝鮮半島だけではなかった。中国もまた別れたのだが、政治的には双方が国として認知されることなく今に至っている。
こうした時代の流れの中で、勝者がどうで、敗者がどうだったかということではなく、戦いの中でどのように庶民が犠牲になったかがクローズアップされている。
台湾には、現地の民族がいて中国から移住していた人がいた。そこに国共内戦で追われてきた人達が来る。この人たちの多くは、戦争に駆り出されて家族と別れ別れになって台湾に住むことを余儀なくされた人達だ。
また、台湾は50年に及ぶ日本の統治時代があった。この間に日本語で教育を受けて日本人として育てられた人達は、終戦間近には日本軍の南方進出の雑役夫や捕虜の監視役として南の島々に送られ、そこで終戦を迎える。日本の兵隊と見られて殺されるのを恐れ、小野田さんのようにジャングルの奥深くに何十年も住んでいた人もいた。
庶民の、その命や生活がいかに軽々しく扱われていたか、赤裸々な証言に基づく記述が続く。中国人だけでなく、日本人の記録も出てくる。田村義一の日記というのがそれ。
http://ajrp.awm.gov.au/AJRP/AJRP2.nsf/Web-Pages/TamuraDiary_J?OpenDocument
これまでなかなか表ざたにされなかった事実。この本(原題は大江大海一九四九)が出たことで、今までつらい体験を誰にも語らずに静かに暮らしていた人達が、これも書いてくれ、この記述のここは違うなど、大いに反響があったそうだ。インタビューは当時の米兵にも及んでいる。インタビューこそ受けていないが、ブッシュ大統領も撃ち落とされた飛行機に乗っていて、友軍に救助されて命拾いをしたというエピソードも出ている。李登輝元総統や馬英九氏など、台湾の著名な政治家も出てくる。
この著者は、ほぼ私と同世代なのでひょっとしてと思ってFacebookを見ると、載っていた。Facebookのすごいところは、世界中の人とリアルタイムで交信できてしまうことだ。一言感想を申し上げておいた。