天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「ラスト、コーション 色・戒」 張 愛玲

これは中国の近代小説と言ったらいいだろうか。上海人の友人の張さんが、張愛玲という人をチラと紹介してくれたので、読んでみた。同じ張さんなので、ひょっとして親戚かと思ったが、そういうわけではなかった。中国に張さんは5万どころではない。

ともかくこの本、時代背景が面白かった。日中戦争の時代から、国共内戦などの時代の民衆側の感覚が伝わってくる。民衆と言っても、共産党に引っ張られる農村の人たちではなく、都市住民の方だ。
上海では、戦前から外国の租借地域があり、そこへ日本が来て、国内では国民党に共産党といろいろな権力や支配者が目まぐるしく変わる場所だった。その中で生き延びるために、自然スパイの役割を演じるものもいれば、自分の立場をはっきりさせないことで生きる術とするもの、あるいはひたすら金持ちや権力者に媚びを売って生きる。そういうのが、特段信念をもって活動するというのではなく、たまたまその時代にその場所に生まれたことから、庶民の生き様だったのかもしれない。そういう状況でも、人は恋愛もすれば、家族、親せき、職場での人間関係の中で生きてゆく。そういった様子が伝わる小説4編が収められている。
そんな内容なので、張さんは共産党の支配する中国にはいられず、1952年に香港に脱出し、そこから渡米している。
共産党の支配がはじまった中国では、この手の庶民文学は途絶え、映画も唄も芝居も本も、共産党礼賛の内容でなくては許されなかった。改革開放以来、徐々に現代文学として政治色の無いところで、文学小説が戻ってきつつある。そういう状況の中で、このスタンスの本はとても興味深い。目まぐるしく動く社会の中で生きる中国人感覚というものが読み取られる。
もう少し、この人の書いたものを読んでみようという気持ちになった。