反日 解剖 水谷尚子著
しばらくブログをアップしないでいたら、友人から台風見舞いのメールが届いた。台風被害のせいでブログどころではないか、と心配してくれたのかもしれない。ありがたいことだ。
間が空いた理由は、そうではなくある方の逝去を悼んでいた。このことはまた落ち着いたら書かせてもらうかもしれない。今日は掲題の本について。
著者の水谷尚子さんは、ウイグルのことを書いた「中国を追われたウイグル人」という本を読んだ時に知った。積極的な中国ウォッチャーであり、その時にこの本をチェックしておいたのだった。
水谷さんは、二度の中国留学経験があるので中国語をよくし、中国のどこにでもひるまず出かけて行って取材をしている。
中国には、直接共産党とは関係の無い反日活動団体がある。今ではその活動はネットが中心だ。この本は2005年に書かれているが、中国における反日の状況は基本的に今も同じだ。程度で言えば、日中国交回復以来昨年から今年が最悪とも言える。
領土問題としての魚釣島の問題は以前からあった。中国側の論理では、日本の敗戦と同時に中国に返還すべきであったということらしい。しかし中国おける反日感情はこのことだけではない。日本が中国に満州国を建設し(勝手に作り)、更に侵略していた時代の、日本軍の残忍な行動が反日の温床となっている。
しかし、日本敗戦の時点で当時の中国共産党は日本に戦争の責任を問わないことした。戦争では両国の人民が共に苦しんだということで、そういう方針を宣言した。当時の人達は一様にそういうものだと思った。実はこのことは高度な政治的判断であったのだが、それは今回の主題ではない。
この本では、2003年の西安で起きた日本人留学生への暴力行為と学校側や政府、あるいはメディアの対応から書きだされている。2005年に上海でやはり日本人留学生が受けた暴行と、その対処についても具体的に紹介されている。当時の日中のメディアでは報道されなかった実態だ。
現在の中国で、日本人に対して具体的な反日行動をするのは直接の戦争被害者ではない。戦争も日本も知らない連中だ。ではその彼らがどうして反日感情を持つのか。よく言われるように、共産党が人民の不満の矛先を反日に向けている、というのが詰まるところの原因ではあろう。
具体的には、今でも中国でテレビをつけるとどこにいても日本軍の恰好をした悪者が出てくる番組をやっている。そして、最近では「日本鬼子リーベンクイズ」をやっつけるコンピュータゲームまであるらしい。こういうもので育った若者は、現在の日本に関する正しい情報を知らされずに育つので、「日本=悪」という概念が出来上がってしまっているのだ。
勿論、日本をよく知っている知日派と言われる人達が、冷静な発言をすると大層な反感を買ってしまうらしい。大層残念なことだ。
自分がはじめて中国に仕事で出かけた頃、向こうで日本語を勉強して流暢な日本語で通訳をしてくれていた大学出たての女性が、「日本人は怖いと思っていたがみんなやさしいのね」と言っていたのを思い出す。一般の若者は、日本人と接する機会が無く、ちゃんと学習する機会も無いままでいると、日本人=悪いヤツ、怖いヤツらと思いこんだままでいるわけだ。
以前、シンセンで私から大金を取ろうとした白タクの連中も、「お前は日本人だから中国の的だ、だから1000元払え」と言っていた。このときは中国の友人との電話のやりとりで事なきを得たが、実際にこういう連中を目の当たりに見て残念で仕方が無かった。この前も新幹線で乗り合わせた46歳のおっさんと話していたら、日本人に対する認識はひどいものだった。
こういったことに対する日本の政府の対応もあまり良くない。と筆者は言う。靖国問題だけではなく、たとえば知日派の人達の活動をもっと支援してはどうなのか、ということだ。
水谷さんは、草の根交流の大切さを語る。知識だけでなく、出かけて行って交流することを勧めるし、彼女自身が実践している。そういう意味では、自分も一般人にしてはかなりそれをやっている方だとは思う。実際、中国語を覚えて、使える程度が進んでゆくのが面白いし、二胡は上手になると楽しいだろうと練習をする。それはそれでいいのだろうが、中国の青少年たちに日本に対する正しい認識を持ってもらう方法は無いものか。著者も書いているが、ちゃんとした日本語教師が不足しているらしい。日本語教師の立場なら、一度に多くの学生たちと接することが出来る。
自分としてはちゃんとした日本語教師になる自信はあるのだから、まだ動けるうちにもう一度トライしてみた方がいいのかもしれない。などとも考えた。