天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

それでも生きてゆく 姜尚中

 今年の1月31日発行のこの本は、期待を裏切らない姜尚中氏らしいいい本だった。

  中の記事の大半は、月刊誌マリソルに書かれたコラムを整理して並べたものだった。月刊誌マリソルってナニソレ?という感じで知らない本だった。それもそのはず女性のファッション誌だった。そうするとこのファッション誌は大人の女性向けなんだなと思った。あるいは、この文章をこの雑誌を手にした女性の目に触れるだけではもったいないというので集英社が単行本としてまとめたのだろう。

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 現実は本当はどういうことなのかを分かりやすく語ってくれる。分かりやすくというのは、平易な言葉でというよりも、偏見のない目には”そうだったのか”と分かるということ。今の日本はいい社会とは言えない。

 そのうえで、本のタイトルにもあるように「それでも生きてゆく」には、どういう心構えなり覚悟をもつべきなのかを語る。

 著者は私より1年先輩で、同じころ同じキャンパスを歩いていた人。学部学科まで同じ。なのに彼は若いころから真面目に冷静に物事を見て考えていたのだなと思う。のほほんと受験勉強を終えて東京に出てきた自分とは違うそのわけは、やはり彼が在日ということで不条理な扱いを受けて育ったことにあると思われる。

 中身はどんなものか少し触れてみる。目次はこんな感じ。

〇はじめに

〇年表---2010年から2021年までに起きた主な出来事が当時の首相が誰だったかとともに列挙されている。最近はこんな時代なんだと振り返っている。

第1章 政治は人を救えるか

第2章 ルポ・福島を行く~分断された被災地

第3章 変わりゆく知の形

第4章 揺れ動く世界

第5章 ジェンダーをめぐる攻防

第6章 対談・上野千鶴子さんと語るこれからの生き方

 この本のために対談をした記録

第7章 問われる人間の価値

第8章 ルポ・沖縄を行く~消えない傷跡

第9章 コロナ禍を生きる

第10章 不透明な時代の幸福論

〇おわりに

 

 上野千鶴子さんとの対談では、先の衆議院選挙で政権交代が出来なかったことを二人とも残念に思っている。「不条理な扱いを受けながらも若者は変化を望まなかった」あるいは政治に関心も期待もしていない。それが選挙の結果となり、おかしな日本を見直そうという動きに至らなかった。

 上記の各章のタイトルを見ると、おおよそ何がかかれているか分かるが、その推察を裏切らず、更に知られざる事実に踏み込んでいたり、嘆きだけで終わらない文章が輝く。

 推測がつく人は、内容を確認する意味で読んでみてほしい。何が書いてあるのか分からない人は、是非読んでみてほしい。別に本の宣伝を頼まれてませんがね。ここに記載の意識を共有することができれば、少しはいい感じになれる。

 

 最終章の最後は「二度生まれ」の幸福論と言う文章でくくられている。

 そもそも私たちは、「人生の目的は幸福になること」だと思い込んでいます。でも、生きると言うことは、不可避的に苦痛や苦悩が訪れるものです。幸せもあるけれど、不幸もある。生もあれば、死もある。すべては地続きなのだから引き受けざるをえないのです。

 なんだか宗教的になっているが、だからと言って現実の社会の現状を受け入れるのがいいと言うことではなく、これはあくまでも心の整理であって、社会の問題はこの書の中でも核心的な部分が指摘されているように、問題を正しく認識することで人々の行動はそれを修正する方向に動くのだと思う。