天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

炭鉱に生きる 山本作兵衛

 この本も、長らく書棚に眠っていた。眠りから覚めた本だ。

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 九州は筑豊の炭坑労働者であった山本作兵衛さんが、記憶を頼りに、かつて存在した炭鉱の生活を孫たちに伝えたい一心で絵を描いた。その絵が、世界記憶遺産に登録された。

 2011年に新版が出たときに買い求めている。きっかけはブックレビューというテレビ番組だったと記憶している。珍しい本だというので買っておいたのだが、半分は絵のページになっており、絵を見ただけでしっかり文章を味わっていなかった。

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 今読んでみると、「地の底の人生記録」という副題が、炭坑だから地の底という意味と、最低の生活レベルの記録という意味の両方あることに気づく。実際、炭鉱はほかで失敗した人が生活に困っていく所でもあった。そして労働者不足のために徴用ということがあったわけだが、それがどのようなものだったか、文中の一節がよく示している。

「大手炭鉱では、朝鮮からの徴用はもちろんのこと、中国人の捕虜や、英米の捕虜が数多く強制労働をさせられておりましたが、なにしろ日本人の坑夫さえこんあ状態ですから、それこそ目もあてられないような虐待であったようです。運よく生き延びて本国に帰ることのできたものはまだしも、こんな筑豊の炭鉱で息を引き取っていった人たちは、さぞかし死んでも死にきれない気持ちであったことでしょう。」

 山本氏は、炭坑を経営する会社がいろいろある中で、悪名高い麻生系の炭坑にも出入りしていた。そこはやはり他に比べて、労働者への搾取や虐待がひどかったことが文中からうかがえる。

 人間として最低レベルの生活と言うなかでも、中の絵にあるように月琴や胡弓を抱えた芸人が来たりしていたらしい。他に娯楽は何もない時代だ。こういう人達の出入りが娯楽と同時に、隔離された世界の情報源でもあったらしい。

 明治、大正、昭和と続いた世界。炭坑は日本で終わったわけではないが、現在は機械化が進み、無論安全対策もされており、かつて山本さんの絵と文が示すような環境で働くことはない。

 そういう意味で、この本の中の絵と文は記憶遺産として価値があるのだろう。しかし、ここで行われた犯罪ともいえる虐待の追及はどうなっているのだろう。韓国の徴用工の訴訟問題が起きているが、当然当時の雇用に問題があったことは明らかで、個人の人生をどうしてくれるのかという問題に、国家間の賠償問題は済んでいるという整理で済まないことは確かだ。