天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

中国文学この百年 藤井省三

 新潮選書で1991年に出た本。もう23年前になるが、1989年の天安門事件の2年後。著者は日中国交回復後の初代国費中国留学生だった。

 中国現代文学という冊子は時々読むが、中国の文学といえば魯迅魯迅以降、現代に至る中国の混乱期に文学の位置づけはどのようなもので、文学に携わった人達はどのように過ごしてきたのだろう。といういわば分かりにくい部分をサラリと明らかにしてくれる本だ。
 サラリと言っても、著者の中国文学および中国そのものに対する思い入れがあってこそ書ける内容だ。魯迅は名前は売れているが、病没する直前はどのようなことをしていたのか。映画鑑賞に凝っていたというくだりは面白い。亡くなった原因は喘息だったらしい。自分もここ数年喘息改善に取り組んでいるが、これが原因で命を落とすことが無いように、気構えも大切だ。と最近中村天風さんの本を読んで思っている。
 ともあれ、魯迅だけでなくその同世代の作家がどのように文や政治闘争の中を生き抜いてきたか。現代作家に至るまで、清朝から民国になり、日中戦争国共内戦共産党政権下での権力闘争にいかに翻弄されてきたか。文学者、小説家の苦労が偲ばれる。ことさら、老舎は文革の犠牲者であり、こういう人たちが自由に活動を続けていられたら、中国文学はもっと深い、味わいのある世界が開かれたことと思う。
 中国映画「紅い高粱」を見たことがあったが、これは莫言の「紅い高粱一族」が原作。この原作がどのような時代背景の中で書かれ、何を語ろうとしていたのか。やさしく解き明かしてくれる。莫言は今やノーベル賞作家として名をはせたが、「転生夢現」など彼一流の奇想天外な物語の展開の中に時代を風刺するという作風がこの頃から見えているようだ。映画だけでなく、本で読んでみたくなる。
 などなど、まさに本のタイトル通り、中国文学がこの百年の間どうであったかの分かりやすい解説書であり、著者の中国への愛情が感じられる。巻末にアヘン戦争以来の中国文学年表が載っていて、これなどを参考に近現代の中国小説などを読んでいきたい。