天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「中国の一日」という本

 この本は、1936年5月21日に中国各地で何があったのか、任意の有志から寄せられた原稿を選別し、1冊の本にまとめ上げたものだ。編集者は茅盾。彼一人の仕事ではなく、当時の文学関係の有識者のうち、意識ある人たちが集まって企画したものだ。
 どのような意識かと言うと、「抗日」。当時は日本が全面的に中国侵略を開始する前夜という時代背景であった。当時の国民党政府は共匪と呼ぶ共産党を弾圧することを抗日に優先していた。そしてソ連の文学界において、ゴーリキーが「世界の一日」というタイトルで一定の日における世界の様子を同時多発的に原稿を集めて編集しようと言う企画を立てていた。これをまねて「中国の一日」という企画を実行したのだった。
 ソ連の方は実現しなかったが、中国ではうまくいった。当時の中国では80%の人たちが文盲であり、文章を書いて送ろうなどという人たちは読書人、知識人といった人たちだった。実は当時、「日本の一日」という試みもあったのだが、実際には「東京の一日」と題して11人の作家に東京各地の様子をレポートしてもらっただけだった。そういった活動の中で、この「中国の一日」というのが最も成功し、価値の高いものになったようだ。
 どのようなことかというと、「中国の一日」という原稿募集に呼応して3000もの応募があった。これを編集者諸氏が手分けをして選別をしていった。最終的に467点の原稿が採用され、70の版画や絵が取り上げられた。当時の共産党弾圧の中では、国防文学を装いながらことを進める必要があった。魯迅は編集者には加わらず、版画などの選別をしたらしい。
 私の手に入れた本は日本語訳として、1984年の5月21日に初版出版されたものだ。この本には72篇が翻訳、掲載されている。これだけ読んでも当時の中国の庶民の様子がよく分かる。政府に対する不満的な雰囲気がよく読み取れる。
 現在の中国は、経済的な面では当時とは隔世の感がある。即ち国力としては世界に冠たる経済大国となった。この本が書かれた時代の後も、失策による大飢饉が発生し、2千万とも言われる人たちが餓死するという時代を経て来た。そこに比べると庶民の暮らしは底上げされていると言えるかもしれない。しかし、都市部と農村部の不平等な扱いや、格差社会貧困層にある人たちの感覚は当時とさほど変わっていないような気がする。それが中国なのだと言ってしまえばそれまでかもしれないが、それでは人間社会の不平等を容認してしまっている。
 私的にはそういう姿勢をよしとしない。困っている友人には手を差し伸べたいし、中国に対する偏見をなくす活動もできるものならしてゆきたい。明日は友人と会う。その友人は困っていないが、旧交をあたためお互いの存在を確認しあうことでお互いの元気になると思う。
 ともあれ「中国の一日」とはそういう本だった。古本屋を訪ね歩いて手に入れたまでの価値ある本だった。