天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

共喰い 田中慎弥

 芥川賞受賞作家、田中慎弥の本を家内が借りてきて、YouTubeで受賞時の記者会見の様子を見せてくれた。
 芥川賞を「もらっといてやる」という言葉で話題になった人物で、この言葉は当時の石原都知事が最近の文学者を批判して芥川賞の選考委員を下りると発言したことへの反論だった。
 画面の様子を見ると、どうも正常な人ではなさそうにも見えたが、これもメディアのなせるワザかもしれない。

 受賞作「共喰い」は、読んでみて芥川賞作品とはかくありなんという感じのする、芥川賞の典型のような気がした。使われている言葉は、作者の出身地の言葉のようで、はじめはどこの方言だろうかとピンと来なかった。関西弁のようでもあり、九州弁のようでもありと思って作家の出身地を見るとその中間の山口県だった。
 山口県の中でもどうやら庶民の生活の中の出来ごとで、人間の性(さが)がテーマだ。氏が文学賞を得たのはこれが初めてではなく、すでにいくつかの受賞をしており、その文学としての筆力は一定の評価は得ていた。そういうところから「もらっといてやる」という自信の言葉が出て来たということもあったのだろう。
 氏は、母子家庭に育ち工業高校出身で、大学受験に失敗をしたのち、小説を書くべくして日々を過ごしてきた。他のことは考えず、ひたすら小説だけの世界に没頭していると、一種のオタクのようなものではないか。なので記者会見での振舞が何か普通の人とは違うように見えたのかもしれない。
 物語としての「共喰い」の意味はおどろおどろしい内容であるが、どんな状況でも親を親としてみているようなところがある。小説オタクの場合、その読む本によってはちゃんと人間形成ができるのだろう。願わくは、本の世界から外へ、世の中に出て、心に浮かぶことを書いてみて欲しいような気がする。