天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

いつまでも美しく キャサリン・ブー

 「いつまでも美しく」というタイトルだけだと、何か美しい物語のような予感をさせる。しかし原題は Behind the Beautiful Forevers; という具合にBehindが付いている。後ろに何かあるんだ。Life,Death,and Hope in a Mumbai Undercity

 読んでいると、ムンバイのスラム街を舞台にした小説のように見えたが、実は著者キャサリン・ブーが3年半もの間現地に密着取材をしたノンフィクションだった。実は実話、というわけだ。
 実話という点を踏まえると、文中の次の詩句がスラムに住む人々の心境を悲しくもグサリと表現する。
 望まないものは 必ずやってくる
 望むものは けっして手に入らない
 気が進まないところへは 行かなくてはいけない
 もう少し生きようか そう思うとき 人生は終わりを迎える

 インドは、世界の貧困層の30%、飢餓状態にある人の4分の1を抱えている。そのほとんどがいわゆるスラム街に暮らす。急激な都市化、近代化への労働力を提供に田舎から出て来て、用済みになりあふれた人達が行き場を失って、大都市の周辺に身を寄せ合って暮らす。それがスラム街だ。
 ここでは、役所も警察も弱いものから少しでも巻き上げることが常態となっている。こんなくだりもある。「この国で裁判にかけられるのは警察に払う金のないやつだけだ。」
 ひとつの出来ごとを中心にして、ムンバイの空港近くのアンナワディという地域のスラム街に住む人々の実態がまるでよくできた小説の如く書かれている。
 アブドゥル少年は、ゴミ拾い人達が集めてきたゴミを仕分けして引き取り業者に渡す仕事を毎日黙々とやる。そのおかげで家族は、別の土地にちゃんとした家を立てて暮らそうという希望を持っていた。
 しかしその隣に住む足の悪い娼婦が、自分の服に火をつけて隣のオヤジにやられたと叫ぶ。彼らを妬んだ末の狂気行動だ。おかげでアブドゥルと父や兄弟は警察にしょっ引かれて裁判沙汰となる。無罪とはなるものの、その過程で財産の全てを失う。
 ここの人達のことを読んでいると、自分の身に降りかかってくる理不尽な出来事や不幸なことなどが、すべて取るに足らないことどもに見えてくる。
 スウェーデンアメリカ人のキャサリン・ブーはアメリカの貧困層の実態を取材していたのが、どうしてまたインドにというと、インド人の恋人が出来たから。とても分かりやすい、素敵な動機だった。自分も何かそういうことで動くということをしてみたい。
邦訳されて出版されたのは、今年の1月。できたてほやほやだが、2012年には全米図書賞(ノンフィクション部門)はじめ多くの文学賞を受賞し、米国各紙でも話題になった本。いい本との出会いだった。