天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「ある中国人密航者の犯罪」 銭黄山

 一昨日、今年最後の気功教室に参加する前に、時間つぶしのブックオフで三冊の本を購入。今年はもう本を買わないぞ、と思った矢先の買い物。そのうちの一冊がこれ。こんなタイトルを見たら手にしたくなるのは必定。昨日から今日にかけて一気に読んだ。
 15年くらい前の本で、当時は中国からの密入国者が多かった。ベトナムボートピープルもどきに小さな船で来たり、コンテナに詰め込まれて運ばれたりということがあった。そういう風にして違法に入国して来た人の一人の手記である。当時の様子がよくわかる。圧倒的に海沿いの福建省の人達だった。
 今では、日本への旅券も広がったと聞いているが、中国本土から香港やシンガポール、マレーシアに行くことに比べると日本への渡航は壁が高い。ひょっとするとここに書かれている蛇頭と呼ばれる組織にお金を使って、違法入国する人達はまだまだいるのだろうか。
 彼らの目的は、日本で「稼ぐ」ことに尽きる。昔からの華僑の流れであろう。外国へ出て稼ぐというのは、昔から福建省広東省の人達がやっていたことだ。つい最近まで日本で「就学生」といえば、日本語学校に通いながらアルバイトをしている人達のことだ。就学生の期間を過ぎて、大学に合格すれば晴れて「留学生」としてまた日本に滞在できる。今では(H22年より)この区別は無くなり、留学生に一本化されたが多くの留学生は生活費を自分で稼ぐ。これは学校に行ける人達の話で、中国の農村で、大学どころではない人達が日本で働くルートはこの違法入国しかないのだろう。
 この黄山氏も蛇頭に大金を払ってニセ旅券を手に入れ、日本に来た。最初から違法入国なので、わずかに知り合いの人を訪ね、仕事を紹介してもらう。ビル掃除、皿洗いというのが身分を問われずにできる仕事だった。肉体労働で割のいいのは築地の運び屋など。朝から夜遅くまで、二つくらいの仕事をかけ持ち、住む場所は同郷の出身者などと2,3人で安いアパートを借りる。そうして、日本に来るときに借金した費用を返済し、家族に送金を続ける。
 国にいては稼げないお金を、体を酷使して働き続ける。そういった彼らは、違法入国の取り締まりが厳しくなると、身分証明書をもたない為に働き場所が無くなってゆく。そこで、パチンコの不正操作で稼ぐ仲間に入ることにもなる。
 この手記の書き手が犯罪者となったのは、パチンコの仲間内で掟破りをした人間をとっちめた行為、アパートに監禁して罰金の支払いを約束させようとしたことが、「身代金目的の誘拐」ということになり、パチンコの不正操作仲間は「国際犯罪組織」となる。密入国だけなら強制送還で済むところを、犯罪者として日本の刑務所で過ごすことになってしまった。本人たちにとっては、稼ぐための必死の行動だった。
 本の冒頭の書き手の父親のこの言葉が、今の中国人庶民の感覚を表している。
「50年代初めまでの中国は、人はお互いに疑うことはなかった。50年代の末には政治運動が始まり、人は他人を疑いだした。60年代の終わりから70年代に入ると、文化大革命を始めたことで一人の人間の人生を破滅させても法には問われなかった。80年代になって、誰もが自分のことばかり考える世の中になり、人はカネに向かって突っ走るようになった。」
 最後の方での黄山本人の感想はこうだ。
「日本が入国ビザを出してくれたら、おれたちは蛇頭に大金を取られることも無く、その滞在期限内、必死になって働き、必要なだけのカネができたらさっさと家族のもとに帰って幸せに暮らすことができたのだ。入国させないから仕方なく偽造旅券などを使うことになり、借金を抱え、まともな働き口がないからパチンコなんかに手を出すことになるのだ。」清掃会社も、築地の魚市場も安い労働力を喜んで使っていた。それが就労違反となって罪に問われる。
 まだまだ日中関係で見直さなくてはならないことが沢山ある。