中国映画「南国之春」監督:蔡楚生
現代中国映画上映会の日。今日はDVD5本立てのところ、最初の1本だけ見てきた。今日のはいずれも古い映画ということで、これも1932年の作品。白黒で無声映画だ。
1932年とはすごい。私の生まれる前だ。辛亥革命から21年の民国の頃だ。舞台の南国とはどこかと思ったら、香港と広州のようだった。音が無いので、画面の横で映像に合わせた音楽をキーボードで生演奏してくれた。なかなかしゃれている。ミュージックと画像がぴったりで、とてもよかった。こういうのはなかなか見られない。
筋書きは単純明快で演義も今ではクサイが、映画として十分に楽しめた。70年以上前の中国の生活がビジュアルで分かるところが面白い。
香港へ汽車で行ける街なのでたぶん広州だろう。その頃はシンセンは唯の田舎だったはず。その広州の大学(中山大学か?それはどうでもいい)に入学した3人の学生が同居している。その部屋の窓から、隣の建物の窓越しに若い娘が見える。3人のうち一人が彼女にラブレターを書いて窓から投げ込む。それから二人は恋人同士となるが、ある日男の実家から「父危篤スグカエレ」という電報が入る。香港から船で帰るというので、実家は恐らく上海か北京だろう。
帰ると臨終の父からいいなずけとの結婚を強いられ、悩んだ末に従ってしまう。南から同僚だった二人の友人が訪ねてくるが、彼の恋愛を応援していたのに他の人と結婚しているのに驚く。そしてまた3人で公募している仏国留学に申し込もうと誘う。出発は香港から船だ。そこで友人の計らいで、彼の恋人を広州から見送りに来させる。そこで彼女は彼が結婚した事を初めて知って悲しむ。
パリに留学中、親の薦めで結婚した相手は他の男が好きになって、離婚を申し出る手紙を送ってきた。それを見た男は喜んで、南国の彼女のもとに帰るが、彼女は病床にあり明日をもしれぬ状況だった。母親が逝き、失恋して生きる望みも無くなった状態だったのだ。そこでパリから戻った彼は、自分が優柔不断であった為に彼女をこんなにしてしまったことを詫びる。彼女の臨終の言葉は、国が大変な時期なので敵をやっつけて欲しいというものだった。そこで彼はその言葉を胸に刻む、というところで終わり。
ここでいう敵とは主に日本だろう。いづれにしろ中国に食指を伸ばしていた列強のことだ。映画の中では一言もそういうことに触れていないが、留学生募集の新聞記事を写す時に、日本人が華人を殴ったという記事を併せて載せていた。
画像から、当時の香港の港の様子が見えて面白い。外航船は大きな煙突を真ん中にした汽船だ。我々が子供の頃に船といえばこういう絵をかいなと思い出させられた。
興味深く貴重な映画だったが、これは当時の中国の上流階級の出来ごとと言える。現実には食うや食わずの庶民生活があり、そういうことが革命につながっていたはず。しかし当時は庶民を描いた映画を作っても見る人はいなかっただろうし、映画の対象にすらならなかったのだろう。
映画を見てから、いつもの英国パブによりフィッシュ&チップスとエールビールでランチ。
外に出ると、都心では桜が満開だった。