天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

Massage from NAM by Danielle Steel

 ダニエルスティールの数ある作品のなかで、25番目に書かれた本。ベトナム戦争を題材にした、社会派的小説。勿論ダニエルらしく、愛の物語であることには変わりない。
 時代的にはちょうど我々が大学生の頃で、当時色々聞こえていたベトナムの様子がこの本の中でも書かれている。物語りの中に出てくるとより鮮明に残酷な出来ごとの様子が見えるような気がする。あの頃、我々学生の主な話題はベトナム戦争反対か学費値上げ反対だった。ベ平連というのもあった。
 ストーリーは、アメリカ南部のお嬢さん育ちの主人公Paxtonが、地元のお嬢さん学校に進学するのを嫌って、カリフォルニアのBerkeleyに行く。ここで同宿だった仲のいい友達の兄Peterと親しくなり、結婚前提にまでのつき合いに進む。卒業するまでと言っているうちに彼はベトナム戦争に兵役に招集されてしまう。妻帯していればまぬがれたらしい。彼は着任後間もなく、同朋の誤射により命を落とす。なんと意味のない死であることか。そんなことに大いに疑問を抱いたPaxtonは、サンフランシスコの新聞社のオーナーである彼の父親に頼んでサイゴンへ、新聞社の特派員として赴任する。そこからベトナム戦争の実情を縷々述べながらストーリーが展開してゆく。
 そもそもベトナム戦争は、当時は社会主義が勢いのあった頃で、東西両陣営がぶつかっている一部分のようであったが、現地の庶民にとっては現在のアフガニスタンと同様、外国からの無用で魅惑な介入だったのではないか。なのでベトコンの執ようなまでの抵抗を受けたのだ。
 物語の方は、そういう視点ではなく、アメリカの庶民から見て無用な戦争をしていることが書かれている。突然招集されて、命を失うか、被弾して体と心に傷を負わなければ帰れない。任期を終えても、帰国して使い物にならないほどすさまじい体験をしている。
 また、一度戻って再度応召する軍人もいる。戦場で、ベトコンを相手にいつ命を失うか分からない状況。またサイゴン市内には娼婦や物乞い、親の無い子供など、生きるために何でもする地元庶民の姿。それに対して、国に帰るとそのようなことは何も知らない、あまりに呑気な人達であふれている。これでいいのか。またあそこに帰って、命をかけて戦っている同朋を助けるという臨場感。あるいは現地で戦争被害にあっている人達に何かできることは無いのか。という思いでまた戻るのだろう。
 主人公のPaxtonも、女性で記者の立場であるが、繰り返し出かける。現地で愛する人が出来、それらの人たちが次々に命を失ってゆく。戦争からは何も生まれない。暴力による覇権や利権、権益の争いでしかない。そこに住む人々を完全に無視している。
 物語は、アメリカが南ベトナムから完全に撤退する最期の瞬間までが書かれている。しかし、南ベトナムを支えていた現地人100万人を脱出させるというアナウンスは実行されず。この後、北の勢力からの弾圧をうけることを恐れたベトナムの人達は、命がけのボートピープルとなってゆく。アメリカ人のベトナムにおける悲劇は撤退で止まっても、現地の人達の実際の悲劇はまだ終わっていなかった。
 色々なことを考えさせられるダニエルの力作のひとつだ。