天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

短編「昭和18年」

 元日本兵の回顧、とした中国の現代小説。中国現代文学第6巻に収録されている。全勇先という作家の作品。抗日小説とされているが、今の日本を非難する内容ではない。題材は昭和18年当時の満州で起きた五頂山事件と言われる出来ごとである。当地富錦市ではその記念碑のようなものが出来ているらしいが、この事件に出てくる日本軍の将軍については事実確認ができていないらしい。
 話しは現代から始まる。中国の青年が韓国に出稼ぎ行って、休日に郊外に出かけるとそこで一人の老人と出会う。その老人は元日本兵で今は穏やかに韓国で暮らしている。その老人の昔語りがこの物語の内容となる。
 満州国で現地徴兵された中国兵の中に、常龍麗という青年がいた。彼はひ弱であることから教育係りの日本兵からずいぶん虐待を受けたりしていた。しかし頭のいい青年であり、馬の扱いが上手いことから中国人将校夫妻の付き人として、その馬の世話などをするようになった。その部隊はロシアからの赤軍侵攻を防ぐ要塞を守るのが任務であったが、北方戦線が危うくなった時期に、満州軍幹部の楠木将軍と軍事部大臣の視察を受けることになった。その際に常龍麗は将軍の馬をひく役目を言いつけられた。
 視察当日、常龍麗はすきを見て隠し持ったピストルで楠木将軍を撃ち、逃亡を計った。最後は探索され、追跡する部隊の見ている前で狙った将軍が死んだことを聞くと、川に向かって歩き、入水自殺をした。
 この一連の出来ごとを元日本兵<中国語で「日本鬼子」(リーベンクイズ)と呼ばれた>の老人が語る。過去を悔いるような語り口と現在の穏やかなその様子から、時間の経過がその出来事は既に過去のものになったのかと問いかける。
 驚くのは、現代においても中国人作家がこのような出来事を題材にした小説を書いているということだ。決して今の日本のありかたを批判している訳ではないが、当時の様子を物語として再現している。