「ペシャワールにて」中村哲著
中村医師の本。これは先生がパキスタンやアフガニスタンでの活動に関して最初に書かれた本。初版は1989年だが、私が手にしたのは増補版で1992年発行。その後の様子を追記されたものだ。
それにしてももう19年前のこと。ふた昔前とも言える。今年になって中村医師のことを知り、本を読みだして5冊目。先月は氏の講演会で話を聞く機会も得た。
この本が書かれた頃は、中村医師がパキスタン西北部のらい病対策の医師としてキリスト教団体から派遣され、その活動をされていた頃だ。一定の進展がみられたことで本を書かれたのだろうと思われる。一定の進展などと軽く言うのは大変失礼なことだ。そこに至るまでには大変な苦労があったはず。その後20年も活動を継続されている。その活動はらいの治療から病気全般におよび、病気の原因である水不足対策として井戸を掘り始める。そして今は水路だ。メスをブルドーザーのハンドルに変えての活動。スゴイ人としか言いようが無い。
私がこの人に心酔するのは、単に海外で、それも危険な地域で支援活動を継続されていることだけではない。その心情に共感するものがある。氏がかの地に行くきっかけは、山が好きでかつてその地方に登山にいったことがあり、その後キリスト教団体からの誘いに乗ったのだった。そこで活動をするうちに、図らずもそこに暮らす難民といわれる人々の暮らしぶりに、日本人が捨て去り忘れてしまっているものを見た。文明とか近代化とかとは無縁の、人間同士の絆を大切にした生き方。
国際貢献という名目で色々な国々からの支援団体が、波のようにおしよせては都合が悪くなるとさっさと引き上げてゆく。義捐金の獲得を巡って現地の醜い争いもあるようだ。
大国の思惑で翻弄される人々。そういう人たちと共に暮らしながら、病を治すことからはじめ、彼らがまた自給できる生活環境を取り戻す手伝いをしている。ある意味では、日本にはこんないい仕事は無いかもしれない。