天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「司馬遼太郎と藤沢周平」

 佐高信氏の本。「歴史と人間」をどう読むか、という副題がついている。数日前にも書いたが、この本で佐高さんは司馬遼太郎歴史観司馬史観を問題視している。もっと言うと、司馬氏の歴史小説を評価していない。藤沢周平氏の方を圧倒的に評価している。奇しくも今、「歴史のなかの日本」という題の司馬さんのエッセイ集を平行して読んでいる。この二冊の本のタイトルからして、「歴史と人間」という言葉と「歴史の中の日本」というふうに、「人」を見る視点と「国」を論ずる視点とが違うのだろう。視点が違えば、書く内容もおのずと異なるのは当然。
 佐高氏が司馬作品をボロクソに言うのは、その作品を読んで「歴史」がわかったような顔をして、そこに出てくる歴史のヒーローを自らに投影しているような現代の経営者たちが、今のような日本に導いてきたことへの反発から、彼らの愛読書が気に入らないのかもしれない。一方、藤沢作品のよさは、かつて私も読みふけった経験があるのでよくわかる。この解説を見てもう一度代表作やこの本で論じられている作品を読み返したくなっている。
 さて、ここであえて私は今まで読んだ司馬小説について、感じていることを挙げてみよう。こんな感じだ。
1.文章が説明的でわかりやすい。
2.読者に直接語りかけてくる書き方があり、最初はとまどった。小説ではないように思え、まさに歴史解説書のよう。
3.読みなれると、いつの間にか違和感がなくなり筋書きに入り込む。
4.全体に暗さがないので、サクサク読める。乃木希助を書いた「殉死」という作品など、あれだけ人が死ぬのに、死を淡々と書いている。
5.高校時代に科目として習った日本史を、その場を見るように理解できる。
 あえて、肯定的に列挙してみた。このような本を読んでは戦後の日本経済を復興から繁栄に導いた企業戦士や経営者たちが、自らをヒーローと重ね合わせる、とうのだ。自分は読んでみて、ヒーローなどという気持ちにはならなかったが、すがすがしく元気が出るような気がした。
 しかし、戦争を実際に戦ったのは、将軍ではなく兵隊であり、歴史を動かしてきたのは一部のヒーローではなく、名もない庶民たちであった。ここのところに目を向けようとしていない、というのが佐高氏の司馬批判の根拠であろう。庶民派であると任じている自分としては、藤沢氏の作品を読み返すだけではなく、ここに紹介されているいくつかの本、たとえば大岡昇平の作品などを読んでみたいと思う。
 また、司馬氏は前半の歴史書の反省に立って、「街道をゆく」とか、「この国のかたち」とかを記したとしているが、はたして。