天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

25 ドイツ人が見たフクシマ 熊谷徹

 脱原発を決めたドイツと原発を捨てられなかった日本、という副題がついたこの本。著者は25年もドイツ在住の熊谷徹さん。25年前はNHKの記者だった。ドイツでは向こうの保険会社に勤務している関係で、私も過去2,3度お会いしている。
 業界紙の保険毎日新聞にヨーロッパ通信というコラムを今も書いていらっしゃる。

 本の内容と、元NHK記者の生き方に考えるべきことがある。まず本の内容から。
 3.11で福島原発原子力事故にあって、悲惨な経験をしているのは日本で、ドイツは事故が起きたわけではないのに、ドイツはこの事故から4か月も経ないうちに脱原発を決めた。すなわち6月30日に原子力法改正案を可決し、2022年までにドイツのすべての原発を停止することを決めた。メルケル首相が先頭に立って決めたわけだが、実は彼女は保守党であるCDU(キリスト教民主同盟)に属して3.11までは原発推進派であった。
 それが福島の事故で、技術的に優れた国だと思っていた日本ですら原発事故を防ぐことができなければ、事故後の適切な対応もできていないことを知って「新しい知見を得たら、必要な対応を行うために新しい評価を行わなければならない」として脱原発政策に転換した。人が制御できないものを使ってはならない。しかも使用済み核燃料の処理もできない状態で、これ以上核のゴミを増やし続けることを容認してはならない。きわめてまっとうな考えだ。
 ドイツが原発を進めていた理由は、化石燃料による発電装置から排出されるCO2の問題であった。したがって原発に取った変わるべきは風力発電水力発電太陽光発電といったものであり、十分な設備を備えるにはまだまだ設備投資も必要。
 しかし、ドイツは経済性よりも人間の安全を重視した。脱原発の推進にお金がかかることも国民的合意の下で決まった。
 それに比べて、事故を起こして世界に迷惑をかけた日本が、事故後に首相自ら原発を売り込みに出かけたり、福島の放射能は完全にコントロールされているとウソをついてオリンピックを誘致した。人の命よりも経済を優先する国になっている。
 経済優先といえば聞こえもいいと思うかもしれないがとんでもない。大企業優先で、格差の広がる社会が増幅されている。
 つい現在の情けない日本のありように思いが行ってしまうが、熊谷さんは必ずしもドイツが良くて日本がダメと短絡的に言っているわけではない。用心深いドイツ人の国民性についても言及している。しかしでは日本の国民性は何かといえば、長いものに巻かれるのが得意ということだろう。永井荷風もそこを指摘している。
 これだけひどい状況でありながら、まだ自民党を支持する人間がいる。NHKを代表とするマスコミも情けない。想像するに、熊谷さんは日本とNHKに嫌気がさしてドイツに行ったのではないだろうか。
 とにかくこれはいい本だ。ドイツと日本という比較の中で、日本のやばい部分を冷静に指摘している。
 また言葉足らずの状態で終わろうとしているが、まずはできるだけ多くの人にこの本を読んでもらいたい気がする。