天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「北京悠々館」陳舜臣

 読んでいて、面白い本と出合った、と言う感じがした。
 先週末に髪を切りに行ったときに、待ち時間に読む本を忘れてしまった。そこで床屋に行く前にその近くのbookoffに寄って、急きょ何か面白そうな本があれば買おうと、急ぎ書棚を見まわして見つけた本だった。このほかにやはり陳さんの「中国歴史の旅」上下。どれも100円。
 表紙の可愛げな中国服の娘が、何か楽しそうな物語だぞ、と言っているような気がした。
 読んでみると、これまで読んだ陳さんの本に比べて斬新な感じがした。時代背景は清末で場所は北京であるが、ストーリーがとても現代的な感じでその時代的な古さを感じない。文章も平易で読みやすく、先日難解な「abさんご」で苦労した後なので、目で字を追うだけでスイスイ流れが入って来て楽しかった。
 どういう本かと言うと、痛快歴史推理小説という評価があったがまさにその言葉がぴたり。
 日露戦争前夜の日本とロシアの水面下の情報戦が題材で、様々な中国人関係者が登場する。表紙の女性はおそらく文中の芳蘭であろう。革命に命をささげる中国女性だ。悠々館というのは拓本家の文保泰の工房である。文は清の王室と繋がる存在で、芳蘭はその連絡役として王室の系列から派遣されているという位置づけ。
 骨董商の日本人策太郎は情報収集の命を受けて、文と親交を深めてゆく。そのうち、文経由で清の役人筋に大金を渡して、ロシアと中国との友好条約の締結を遅らせようとする。ロシアと戦争を早期に開始する名目を失わないようにするというのが目的だった。そのお金の一部を横取りしようとたくらむ輩がいて、その一人でもある文自身が殺害される。真犯人は・・・という推理小説的な、しかし中国ならでは本当にありそうな話でもある。
 革命家と王室の役人とが結託してお金を山分けする。彼らにとって一体革命とは何なのか。毛沢東でさえ、革命家でありながら日本軍を国民党軍との戦いに勝利するために利用していた。高邁な理想をかかげる共産党の幹部も、その利権でしこたまお金をため込んでいる。
 一方で芳蘭のように、純粋に活動して命を失う庶民もいる。この構図は中国だけだろうか。