天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

現代中国女工哀史

 
この本は今年の2月に出版された本。「女工哀史」といえば、日本が専売である。その昔、機織りなどの工業化が進んだ頃、貧しい山の農家から野麦峠を越えて年端もゆかぬ少女たちが女工として働きにでた。その過酷な労働実態の事実が哀史として語り継がれている。
 それと同様のことが中国でも起きている。ということが書かれた本なのだろうと思って買った。著者はレスリー・チャンという中国系アメリカ人の女性。舞台は新興工業地域である東莞。そこに出稼ぎに来ている女性たちの実情を色々な角度から書いている。かなりの時間をかけて取材をしている。取材と言うより、調査していると言った方が適切だろう。
 東莞は広州とシンセンとの間にある南の街であり、そこより北の地方、湖北省湖南省からの出稼ぎが多いらしい。そこにある工場の労働条件と言う点では、かつての日本の女工哀史時代の工場と同じで、一日十数時間働く、機会の流れにのった単調労働だ。しかし単にそういうことを書いているのではなく、そこに置かれた出稼ぎ少女たちの生活実態と、そこから抜け出そうとする彼女たちの行動、考え方が描写されている。大変興味深い。
 そして、その他にアメリカ人となっている著者自身のルーツを探ることで、清朝以後の中国人の性癖を事実に基づいて分析している。東莞での出来事やそこで調査対象となってくれている女性たちちの話と、著者のルーツ探訪の話とが交互に書かれている。両方のことから中国人そのものがあぶりだされてくる。
 伝統的な中国の世界は次のような言葉で語られる。
 「中国人が集団の罠にかかっているおなじみの光景を、私は遠くから眺めているだけだった。集団から抜け出して個人としての行動をとることができないという、この国民性の弱点は・・・。」
 「村の行事には集団の力を押しつける力学が働いていた。そして、文革の根っこがここにあった。」
 東莞で働く女性たちの中には、個人として自立しようという努力をする人たちがいる。しかし、常に田舎の親や親せきとの関係を意識せざるを得ない状況は続いている。
 しかし、現在の中国の出稼ぎは、村に帰ることを前提としない。いまだに都市戸籍農村戸籍とで不平等な取り扱いを受けているが、「農民工」と呼ばれる出稼ぎの人たちが実質的に世界の工場と呼ばれる中国を支えている。いずれ、彼らの権利も徐々に確保されてくることと思う。
 この本は、ただ悲惨な労働実態を指摘するというより、空白の時代を経験した中国の若者たちの性癖とバイタリティーを事実に基づいて書いた本だった。著者の深いものの見方に大変感心させられた。