「何日君再来」
これはテレサ・テンが唄っていた歌のタイトルだ。正確には彼女よりももっと古い人の歌らしい。が、ここでは、即ち本のタイトルとしての意図はテレサ・テンの唄った歌として、採用してある。
テレサ・テンは中国名では訒麗君というらしい。これも芸名かもしれない。その彼女がタイのチェンマイで謎の死をとげたことについて書かれた小説である。著者は平路という台湾の女流作家だ。
構成は、彼女を探るスパイのレポートと出所の不明な彼女の手記が入れ替わり並んでいるようになっているが、文章は時間や場面がとびとびで支離滅裂。論理的に筋を追って読んでいくとわけが分からない。いろいろ想像しながら読むことを強いられる。なので、疲れる。
この手の文章は他でも読んだことがある。最近の中国人作家のはやりだろうか。この著者は台湾人ではある。テレサ・テンも台湾出身でアジアの歌姫だった。日本でもよく売れた歌手で、今でもカラオケには彼女の曲がいくつも収録されていて、唄う人も多い。
文章は読みにくいが、読んでいると彼女のチェンマイでの生活が彷彿とされる。けして説明的ではないが、様子が分かり、感じが分かる。そういう風に書かれているのだろう。
で、何日君再来ってどんな歌だったか、とネット検索してみるとすぐにテレサの画像とともに歌を聞くことができる。便利な世の中になったものだ。改めて彼女の映像を見て歌を聞いていると、中国語の歌の響きの独特な美しさが感じられる。彼女がうまかったことも事実。売れすぎて疲れてしまった感じだ。当時の台湾と言う事情、即ち中国共産党から逃れてきた人たちという立場からも、売れっ子スターでいることに色々苦労があったらしい。ということも、分かりにくいこの文章の中から感じることができた。