天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「分かち合い」の経済学 

 昨日は、安く本を手に入れて喜んでいたが、今日はこの神野直彦氏の本を読んでいて、こんなに安く買っていいのだろうか、と思った。小説が安くてよくて、新書になるような論説やエッセイは高くあるべきという意味ではない。古い小説本は、本としての製品自体が古く、一人以上の人が読み終わったセコハンであると同時に、昔書かれた故に作者は十分にその報酬を受けとっているであろうし、現在は他界されている。
 一方、こちらの本は先月出版されたばかりの本。その名の通り「新書」。720円+税がその値段。しかしその中身は、著者が長年研究されてきたエッセンスと主張が詰まっている。格差とか貧困が問題になっている日本の経済を見事に分析している。
 著者は、あとがきの中で自分の思想が異端だとしている。私がこの本を手にしたのは、例によって新聞広告の本の紹介を見て、そのタイトルが内橋さんや宇沢弘文氏の主張と共通するにおいを感じたからだ。においは当たっていた。宇沢教授の弟子にあたるだろうか。そもそもの先生は加藤三郎氏であったらしい。
 どうして異端なのだろうか。政治家のやることを正当化する学者ではない。それを持って異端などと考える必要はない。ご自身、本の中で新自由主義の学者として今の日本の状況を導いてきた政治家、およびそのお先棒を担いでいた学者たちを批判してるではないか。学説というのは、色々あっても仕方がない。とはいえ、真実は一つ。真理を追究するのが学問で、「学の独立」こそ大事。どこかの私立大学の校歌の通りだ。
 さて、せっかくなので最後の章で書かれていることをまとめてみる。著者は現代をポスト工業化の時代であり、古い時代から新しい時代への歴史的転換期にあるとする。これを「危機の時代」と呼び、これに対する三つの戦略を提起している。
1.人間的能力向上戦略:平たく言うと教育の問題。子供の教育だけではない。新しい時代、すなわち知識社会に対応できるための再教育の機会も含めての話。子供の教育に至っては、技術教育ではなく、型にはまった人間を作る教育でもない。自ら問題認識をして解決策を模索しようという人格の形成。「盆栽教育」ではなく「栽培教育」という言葉を使っておられる。
2.生命活動の保護戦略:人間としての生命活動が健全に機能して、人間の能力向上が意味を持つ。従って、医療と環境を重視した策を展開しなくてはならない。
3.社会資本培養戦略:こう書くと社会資本とは何かが説明されねばならない。1の人間能力向上をめざして、人が知識を蓄えたとしても、これが個人にとどまれば意味がない。知識の「分かち合い」がされることで、社会は発展する。この人と人との絆を社会資本と呼んでいる。個人の能力とこの社会資本を合わせて「知識資本」と呼び、この蓄積こそが今後の知識社会の重要なカギとなる。
 ひたすらモノを得ること、所有することを成就することが幸福だと思っていた時代は終わるのではないか、あるいはそのようなことを早くやめないと、人間は幸福にはなれないのではないかと、漠然と感じていたことが、この書のなかで理論的に解明されているように思える。ようく確認してゆきたい。