変な外人
昔、「変な外人」という言葉がはやった。今はこの言葉は市民権を得て普通に使われている。あれはE.H.エリックだったと思う。耳を器用に動かしていた。
先日、電車で変な外人に遭遇した。エリックに似た人というのではなく、本当に変だったのだ。白人にしては背が高くなく、横にがっしりした体形で、お酒に酔っていたらしい。電車に乗り込んで、発車のタイミングで体が振られたとき、両手を体の前でグルグルさせ、空中で自分の体を引っ張るように体勢を立て直していた。ひとりで乗ってきて、誰も見ていないのに、連れがいておふざけをしているような感じ。そして荷物を網棚に載せ、電車がゆれても落ちてこないことを指先確認している。おもむろにその網棚の下に座り、手に持ったハーゲンダッツのアイスクリームを食べ始めた。カップに一礼してから、木のへらでホジホジしてアイスクリームを食た。完全に誰か見ているのでサービス精神でふざけて、見られていることを意識した動作。誰も気付いていないし(私以外は)、連れもいないのにまだやっている。誰かと一緒にいるように振舞う。食べ終わると立ち上がって、上の荷物から二つ目のカップを取り出してまた食べた。
単なる酔っ払いだが、この人は孤独なのだと思った。普通、飲んで帰るときは誰か友達が一緒で、飲んだ勢いで色々話をしながら電車に乗る。ひとりならホッとして静かにしているものだ。しかし、彼はひとり異国に来て、日本語は話すだろうが、自分とは生まれも育ちも異なる黄色い肌の人々に囲まれて生活している。お酒を飲んでも、打ち解けた話をする相手がいなのだろう。お茶目なこともしたくなる。ひとりでお茶目をして、寂しさを紛らわせているのだ。(推測なのに断定的)
では、私がひとりで異国の中国に行ったら、どうするだろうか。同じような行動を取るだろうか。中国の混んだ地下鉄の中で、ひとりでパントマイムのようなことをしていたら、周りは引いてしまうか。それとも「何をしているのか」と聞いて来るだろうか。どちらも困るので、私はたぶんそのような行動はしないと思う。だいたい同じ肌の色をして、誰も変な外人とは思わない。おかしなことをしていればただのバカだ。
日本人は中国では変な外人ではなく、普通にいる人になれると思う。そのような日本人として、私は中国に行くのだろうか。行かないで思いを馳せ続けるのだろうか。