「海賊とよばれた男」百田尚樹
書店の店頭で平積みにされていたこの本を手にとって、なにやら面白そうなのでそのうち読んでみたい、と思っているところに先輩から「希望者に貸し出す」とのメールが入った。ということでお借りして読み始めたら、面白くて一気に読んでしまった。
著者は「永遠のゼロ」でデビューした作家で、冒頭に「この物語に登場する男たちは実在した」とある。モデルは出光興産の創業者である、出光佐三という人。面白いのは、永遠のゼロの主人公の宮部というゼロ戦のパイロットがこちらの物語に登場する。ということは、この宮部という人も名前は違うにしろ実在したのだろうか。
ともあれ、話は出光興産の創業者の生きざまを語っている。今も石油業界大手として存在する会社の社史的な要素も無いではない。なので、この本を褒めると出光のまわし者かと思われるのでは、などという誤解を恐れずに言えば、そのような小さな気持ちで生きること自体がはずかしくなるような話だ。
自分が大学生の頃、先輩が就職活動をしていたときに、この出光興産を検討してる人がいた。一風変わった会社であるような話をしていたのを記憶していたくらいで、自分は石油業界を目指さなかったので、それきりだった。
この会社の創業は1911年。即ち辛亥革命と同じ年だ。以来延々と100年以上続いている。自分の会社も創業100周年を在職の頃に迎えたが、そこに至るには統合を繰り返してのことだった。そして最近の会社統合ばやりでついに社名がすっかり変わって別の会社になっている。創業の理念もあったものではない。
そこへ行くと、試しに出光のホームページを覗いてみると、今なお「人間尊重」の理念をかかげて、創業者の写真なども出ている。いかにも日本的な会社として生き続けている。
この本の最後の方で、主人公鐡造こと出光佐三がアンドレ・マルローとの会談の中で話した言葉が彼の理念、信条をずばりあらわしているだろう。曰く、
「ヨーロッパは物を中心とした世界ですが、日本は人を中心とした世界です」。
物語の中身については、あえて触れない。志を貫いた男の生きざま。今の若い人たちは、どう感じるだろうか。息子たちに読ませてみたい本だ。