天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

模倣犯

 朝晩の通勤電車に乗らないと、読書の時間が減っている。最近やっと読んだ長編小説「模倣犯」。

 宮部みゆきの代表作。もう10年前に書かれたものだが、今も十分現代社会を反映した作品として読める。少し今と時代が違うと感じるのは、携帯電話くらいだろう。作品が書かれた頃の携帯電話は、今で言うガラケーだが、そのころは皆が当たり前に使っていたわけではない。しかしその携帯電話も話のなかでは重要な役割をしている。
 ストーリーは連続殺人事件を題材としたものだが、精神異常者による複数被害者の事件は今も起きている。しかも加害者が罪の意識がない、というところまでは現実に起きている事件とも類似する。
 この作品は、加害者の異常性に加えて、被害者側の残された家族が事件の後にどのような生き方を強いられるのか、ある意味その多様な生きざまがリアルに描かれている。
 犯罪事件の流れは、事件発覚後、公的機関である警察によって犯人捜査が行われる。警察の捜査担当者は、いかに速やかに犯人を捕らえるかが腕の見せ所であり、その職業的評価に繋がるので、功を急ぐあまり善意の第三者を犯人に仕立てあげる結果になることが往々にしてある。そして冤罪事件となる。冤罪ではなくとも、公的機関が行うのは犯人逮捕と断罪、刑の執行。メディアが追いかけるのは、そこまで。更には、犯人が凶悪犯罪を犯すに至った背景などが取りざたされる。再発防止というわけだ。
 ところが、被害者の側にどのような影響があったのかについてはあまり問題にされない。最近、犯罪被害者の支援という動きが見られるが、プライバシーの問題もあるのだろうが、一般に知らされる機会はほとんどない。
 その点、この本は被害者の残された家族がどのような生き方を強いられているか、事件の進展に巻き込まれてゆく中で、様々な受け止め方をしている様子が描かれている。
 「模倣犯」というタイトルの所以は、最後の方になってわかる。
 お金に困って犯すのではない犯罪は、犯人の異常な性格で片付けられがちだが、そういう性格、あるいは考え方の人間が出てくるのに社会的背景が影響していないか。育ちの問題で片づけていいのか。としたら、どうしてそういう育成環境ができてきたのか。考えさせられることがいっぱい。