天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「天平の甍」

 有名な井上靖氏の小説。鑑真和上が日本へ渡来するときの物語。鑑真は唐招提寺を開いた。唐招提寺の「唐」はその頃の中国名。唐から招いた人の寺とでもいう意味だろうか。が、この物語の主人公は鑑真ではない。彼を日本に連れて来た遣唐使に伴って、唐に渡った僧たちの物語りだ。
 この主人公達は、唐に渡って20年に及ぶときを過ごしたが、その間大した出世もせず、ただひたすら写経に命をかける先輩の僧に会ったりしながら、日本に唐の高僧を連れ帰るという使命に励む。この物語では、鑑真に出会ってから彼を日本に連れ帰るまで、二度も海を渡ることに失敗して、三度目にやっと命からがら日本にたどり着く。それほど、当時の中国と日本の海を渡る行き来は大変なものだった。これは「遠い国」というべきか、あるいは海を渡ればそこにある「隣の国」であり、学ぶべき文化を持った広大な国であったろう。
 また、唐に渡ると言う大業をしたようでいて、そこで妻子を持って埋没してしまうもの。下手に自分が学ぶより、書物を持ち帰る方が日本のためになると信じて何十年かもかけて写経をし、やっとの帰国時にその貴重な書と共に海に沈んでしまうもの。など、人生は結果として意図した成果を得られないまま終わってゆくものだということを記している。
 逆に大した志も持たずに、飄々として人生につきしたがってるうちに、結果として何かを成し遂げているケースも描かれている。どれも真実だ。しからば、あまり片意地をはらずに、時の流れるままに、しかし思うところにはこだわりながら生きてゆけばよいのか。