天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

含笑花の木

 陳舜臣氏のエッセイ集。中国の紀行文や中国の作家との交流などが書かれている。正月休みに中国に思いを馳せて時間を過ごすにはもってこいの本。以前買い置いた本だ。陳氏の本は、名古屋の和尚さんが話してくれた耶律楚材と弥縫録(中国名言集)というのを読んだことがある。氏は神戸生まれの中国人で、年は我が父とほぼ同年代。
 神戸生まれということは、生まれも育ちも日本。台湾出身だが、祖先は当然中国。福建省のあたりらしい。司馬遼太郎さんと大阪外国語大学で一緒だった。こういう育ちの故に、極めてリベラルな感覚で故郷中国を旅して、思うことどもを書かれている。しかも日本育ちだけあって、祖国中国について実に色々なことを調べてご存知なので、色々な視点からの論評があって興味深い。中国通には受けるが、あまり中国になじみの無い人(かつての自分)には退屈かもしれない。
 中国の紀行文は色々あるが、場所的に多くをカバーしているのはなんと言っても以前のテレビ番組を本にした、関口智弘氏の「中国鉄道の旅」。絵と写真入りで楽しい。実に多くの地を訪問している。陳さんの含笑花の木に書かれている場所も短時間ではあったろうが、ほとんど通過している。陳さんの場合は1980年代なので、ほとんど20年前の旅記録だ。20年前というと、なかなか並大抵の日本人が、気楽に中国旅行という雰囲気は無かったと思う。陳さんならではの旅であったのだろう。
 また、中国の作家との交流もなかなか。最近の現代作家ではなく、文革前からの作家。魯迅の時代からの時間のつながりを感じる。文革で苦労した人たちである。それにつけても、文革とは無知な小中学生が後先も考えずにデタラメをやっただけ。これを利用した大人がいた、ということなのかもしれない。この話は今日は書かない。
 本のタイトルの含笑花の木というのは、香りのいいクリーム色の花の咲く木。台湾では女性が身に付けて香水代わりにしたらしい。花の香りのほかには役に立たないので、切り倒されたりしたこともあるとのこと。しかし、香りは人の心を和ませてくれる。心和む文章の集まりであれかしと、この本にこの花の名をつけたのだろうか。
 ところで、このエッセイ集の最後の部分は氏のお薦めの本の紹介文となっている。中国人ながら、実に巧みな日本語の使い手である氏の文章によって紹介されると、どの本も読みたくなる。中でも一冊あげておくとすれば、稲畑耕一郎氏の「一勺の水」。