天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

ハチ公


 渋谷のハチ公の前で待ち合わせをした。こんな所で待ち合わせをするなど、何十年ぶりのことだろう。周りはこんな風で、みな人を待っている人だ。写っている人は少ないが、ハチ公の前のほうにはドサッと人が立っている。私もその一人。ハチ公の前で写真を撮る人もかなりいた。私もその一人。
 昔の記憶にあるハチ公と比べて、全体に少しスリ減っているような気がした。撫で回す人は少ないと思うが、雨風のせいだろうか。それと彼の向きが90度変わっているような気がする。気のせいだろうか。駅の方を向いて、いかにも主人を待っているようで、とても可愛いやつという雰囲気を出しているのだが、高い台の上に乗っちゃって頭が高い。
 そのハチ公の前で待ち合わせたのは、某社の社長である学生時代の先輩と、その会社の経理部長である学生時代の同期生。その二人が山手線に乗って(だと思う)やってくるのを待っていたのだ。私は半蔵門線で駆けつけた。
 社長が天ぷらを食わせてやる、ということで待ち合わせたのだ。井の頭線の駅のワキのゴシャッとした中に、「昔ながらの」という感じを出している「天松」というお店。社長はそこの某板さんを可愛がっているので、夏枯れのお店に売り上げ協力だ、という名目で私を誘ってくれた。社長のねらいは分かっている。梅干だ。
 春先だったか、銀座の寿司屋でご馳走になっている時、梅干の話になった。「最近の市販の梅干はいかん」という訳。カツオだか蜂蜜だかと漬けてちっともすっぱくない。それがいかん。口に入れるとほっぺたがへこむような味で、紫蘇の葉にくるまった真っ赤なヤツ。ああいうのが食いたい。が、売っていない、とのたまわっていた。その梅干の風情はウチのカミさんの漬ける梅干に酷似していたので、しばしば寿司をご馳走になるお礼にウチの梅干を送ってみた。したところ、これが大層気に入られた。が、さすが社長「欲を言えばなあ」とまたその寿司屋で、「皮はもう少し硬く、紫蘇の葉をを沢山入れて」とご注文。「では今年漬けるときはそのようにせよと、家内に伝えます」と言ってあったのだ。
 その梅干がそろそろできる頃だろう、というので「夏こそ天ぷら」などという立て看板を出した店に誘ってくれたのに違いない。それを女房に話すと、「まだあと一回干さなくては駄目」という。少しだけ味見ということで、早だししてもいいのではと思うのだが、強情なヤツ。出さない。で手ぶらで出かけた。
 社長は「あせることはない。じっくり漬け込んでくれ。お前のカミさんの言やよし」とのことだった。おごそかに揚げる天ぷらはおいしかった。いつもぶらりと行く社長が、今回は前日に予約を入れたので、板さんは緊張してネタを仕込んでいたらしい。
 2件目は新宿のスナック。ここも社長の売り上げ協力店。年増ではあるが、紗だか呂の着物を涼しく着こなした美人ママ。社長は実はお酒を召上らないので、高級ボトルはなかなか減らないが、来るたびに入れ替えているらしい。「お前たちいつでも勝手に来てこれを飲め」とのお言葉。
 スナックで歌が始まると、お決まりのようにそれぞれ学生時代の持ち歌を唱う。が、私は「月亮代表我的心」を歌った。我ながら中国語の歌もうまくなった、と満足な1日ではあった。日本にいればこそ、こんなのどかな遊びもできるのだろうが、このようなものに未練はない。
 そういえば、天ぷらを食いながら、私の個人的中国進出プランを社長に話したところ、「アイデアは良さそうだが、お前は今いる所が不満でそこからの逃避が目的だったらやめろ。そこのところをよく考えろ」とのアドバイス。今私はそこのところをよく考えている。