天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

魯迅の「故郷」

 魯迅の「故郷」という短編がある。彼が小説家として生計を立てられるようになってから、生まれ育った故郷の家をたたんでそこに住んでいる母と甥を自分の家に連れて行くときのことが書かれている。その時に、近所の人々が皆、彼の家のものを持ってゆこうとする。金持ちからは物をとってもいいという風潮が中国にはあるらしい。
 私が仕事で中国に行っていた時、事務所の中でパソコンに使うヘッドホンマイクの盗難にあった。明らかに仕事仲間の中国人の仕業であった。たった今目の前で打ち合わせを行っていた相手が、去り際に持って行ったのだった。我々の感覚では考えられない仕業だ。
 幼なじみの人間が、立派になった魯迅に対して昔のように接してくれず、卑屈な態度をとりつつ目ぼしい物を持ってゆく。魯迅は、そのようなことを当然として書いているのではなく、何かとても悲しいこととして書いている。その神経は真っ当だ。貧しさが、旧友の態度をそんな風にしてしまうのが悲しい。
 私も不愉快で悲しかったが、むしろ驚いた。同じ仕事仲間からあのような形で物を取って行って平然としている。一般の中国人の貧しい歴史のなかで、そのようなことが当たり前に今でも行われる。
 魯迅の小説は何十年も前に、時代背景も異なる中で書かれたものであるが、そこに描かれている中国人と、今の中国人とは少しも違わない。そのあたりは、もしまだ同じような感覚の中国の人がいたら、問題意識を持ってほしい。
 結局は人は変わらないものだ、ということで言えば、日本人はどうなのかということをよく省みる必要もあるのではないか。