天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「君も雛罌粟われも雛罌粟」渡辺淳一著

 雛罌粟(コクリコ)とはひなげしのフランス語名の漢字表記。与謝野晶子の短歌から本の題名に使われている。
 「ああ皐月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟われも雛罌粟」
 これは、夫婦してフランスに遊んだときに詠まれた歌。
 上下二巻からなるこの本は、渡辺淳一氏が与謝野鉄幹・晶子夫妻の生涯を書いたもの。前半は晶子が当時の詩歌会のスター的存在であった与謝野鉄幹に誘われるまま恋に落ち、他の女性たちと争って鉄幹のもとに来る頃までが書かれている。
 鉄幹には子を持つ前妻がおり、また晶子との結婚後も以前の晶子の恋敵との交際をやめない。そういう中で「明星」を中心とした詩歌活動を二人で続ける。台所は火の車。鉄幹の素行の悪さも手伝って、明星の全盛期は終わり鉄幹は沈んだ日々を送るようになる。これを見かねて、晶子は鉄幹にフランス行きを進め、費用も工面する。そのあと彼を追って自分もフランスに行く。この歌はその時に読まれたもの。あなたも私も同じね、真っ赤なひなげしのように燃えているという意もあるか。
 明治、大正、昭和の初めを、自らの心の命じるままに生きた女性。歌人としてあまりにも有名な与謝野晶子。「君死にたもう事無かれ」という詩が広く知られているが、社会主義的な戦争反対という主張ではなく、実は単に出征する弟を思って歌ったのだった。
 森鷗外をはじめ、明治以降のそうそうたる文学者が登場する。文学においても、明治という時代は近代日本のはじまりの時期であったことがよくわかる。そして、男と女の愛情というものは、いつの時代も生き抜いてゆく原動力になりうるものであることを、この夫婦の例も実証しているように思う。