我を超えること 赤堀芳和
この本は、年末に読んだ「共生の『くに』を目指して」という本がとても気に入ったので、この人の本をもっと読んでみようと注文したのだった。
ー近代理性主義の克服ーという副題が付いているが、それが何を意味するか読んでみるまでよくわからなかった。「共生」という社会派の主張をするので、この本もそうかと思ったら、小泉八雲と夏目漱石とブッダのことが書いてあった。
小泉八雲のことは、前の本に少し出ていたので唐突感はなく、小泉八雲の知られていない一面、というか私が知らなかっただけかもしれないが、日本を愛していた理由などが解説されている。
要するに、明治以降日本は西洋かぶれして、産業的には強くなったが、本来日本人が培ってきたいいものを見失ってはいけませんぜ、というのがその主張。小泉八雲は外国人であるがゆえに、日本人以上に日本のいいところを評価して、逆に当時の政府がそういうものをないがしろにしていることを批判している。
同じことを今の政府もやっている。ということを赤堀さんは示唆する。敗戦で、一旦ご破算になった日本が、真面目な国民性がゆえに、一生懸命働いて国を復興させたと思ったら、経済力がついたのをいいことに、またアメリカナイズされて、政府は米国にフォローする始末。
著者は、学者でも政治家でもない。定年退職をしてからこういう本を書き始めた。働く者の見方を代表している。大手メーカーに勤務していたということだが、立身出世主義に毒されずに無事定年を迎えて、ご自分の考えを本にして出している。本の結びの方で書いているが、これからは立身出世ではなく共生の時代だと。
一つ前に紹介した小澤徳太郎さんの本「スウェーデンに学ぶ」も中で推薦されている。きちっと仕事をしてきて、その挙句こういう活動をする人がいることがわかっただけで頼もしい。自分もまだこれから、定年後が楽しみになってきた。経歴を見ると、赤堀さんは自分の今の年には、もう退職されている。
ワシももうそろそろいいんでないの、と思っているところ。二胡はこれからの人生の彩りになるだろう。あるいは、二胡をきっかけにした活動ができればなお結構。
もう少し本のことを褒めると、小泉八雲を再認識させてくれたほか、夏目漱石の「草枕」のエッセンスを解説してくれている。そういうことも著者の思惑にあり、なかなかいい本だと思う。
夏目漱石は、近代日本のありかたに疑問を呈して、思いつめて病気になって短命でこの世を去ったが、この頃病気を克服して長寿を全うし、生き様を後進に伝えることをした中村天風氏は別の意味ですごい。
相通じるものと、視点が異なる部分とが感じられる。それこそこういうことをもっと整理してみたいものだ。