天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「からゆきさん」 嶽本新奈

この本を手にしたのは、CARABANさんのブログに紹介されていたのがきっかけ。読んでみると、現在日中友好協会などで問題視している従軍慰安婦の問題にもつながる近代史を分析した本だった。同様の題名で、森埼和江さんが書いた本がある。からゆきさんとは、海外に出稼ぎに出た女性のことであり、その仕事は「女のしごとたい」とカラッと元からゆきさんが語るように身を売る仕事だ。
身を売る仕事の位置づけは、人身売買から一種の奉公契約のようになってきたものの、実情は変わらず、根本原因は貧困に根ざしている。日本は、根本原因の貧困の問題をそっちのけにしておいて、そういう仕事につかざるを得ない女性たちを卑下する社会であり続けた。

明治維新以降、日本が膨張政策をとるうえで、海外に送り出した男たちを「安全に」働かせるために、女性たちを連れてゆく流れを作ってきた。従軍慰安婦はその最たるものだった。しかし、からゆきさんと従軍慰安婦や、現在のセックスワーカーを同じ流れで物事を見ては判断を誤る、と著者もそういう書きぶりだった。
そもそもが、貧困の故に自ら承知で親に売られることがあったが、その売られ先が海外に広がったのがからゆきさんと呼ばれる存在だった。日本に来ていた外国人の相手をする女性たちもいた。こちらは堅気の仕事でないにしろ、高額な稼ぎになると同時に日本人より優しく扱われることは悪くなかったという面もあったろう。
面白いのは、福沢諭吉の正体に触れられている点だ。「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」という有名な言葉で人はみな平等であるとした偉い人として認識されているが、実は身を売る商売をせざるを得ない女性を蔑視している。真理を追究した学者というよりも、その場を収めて整理をする政治家だったようだ。
貧困が問題であること、そして日本の膨張政策に利用されていた存在。からゆきさんと呼ばれる人たちはそういう立場にあると言えそうだ。この本は著者の博士論文をやきなおしたもので、からゆきさんは研究対象だった。学者らしく、冷静に過去の文書を丁寧に調べてまとめてあるが、著者自身が天草列島出身であることがこの研究のきっかけであろうことは想像できる。からゆきさんはこの地方に多かったようであるが、実はひとり天草の問題ではないということも事実で、そのことも述べられている。
現在取りざたされている従軍慰安婦問題を考える上で、背景として知っておきたい歴史であり、日本という国がどういう国なのかを考える上で、男性作家の書く歴史小説だけではわかりえない側面があることを教えてくれた、貴重な本だ。
先日の講演会のあと、学者先生の徐さんが「文字に残しておくことは大切」と話していたが、まさにそうだと思う。というわけで、この問題をもう少し考えるために、この本に先行する森埼和江さんの「からゆきさん」と、以前読もうとしておざなりになっていた「サンダカン八番娼館」山崎朋子著をネット注文した。