父たちの大東亜戦争
この本は、どこかで紹介されていたものを注文して読んだ。著者は堤寛というお医者さんで、その父親の戦争経験を語ってもらって本にしたものだ。
堤さんは、私と同じ年齢で、ここに書かれているように父親はよく戦友会に出かけていたそうだ。そういえば、私の父親も戦友会には必ず参加していた。これを読んで、自分も父親の戦争体験を改めてじっくり聞く機会がなかったことを少し残念に思う。
堤さんの父親は陸軍で、甲種合格ではなく若干体も小さく乙種合格だったので、戦地に行くにも第一線ではなかった。行先も満州とか北の方ではなくスマトラで、直接銃弾の飛び交う戦地は体験していない。同じ時期に、同じ地方から招集されても運、不運により終戦まで生き延びたかどうかがきまる。というような趣旨のことも書かれていた。
うちの父親は、学徒出陣組で、そういう場合は身分が早く上になるらしい。そして朝鮮まで行ってそこで終戦を迎えて早めに帰国できたらしい。が、うちの父の場合は、戦友会には行くものの戦争の話は家族にしなかった。そういう人は多いのだろう。軍隊などという特殊な体験は、平時には無用のもので、それだけにそこで時間を共有して生きて帰った戦友との関係は格別なものなのだろう。格別ではあろうが、そういうものを美化してはいけないと思う。スポーツのチームでともに戦った仲間ならとってもいいが、戦争がきっかけで友人になることなどなくてもいい。
話は、シンガポールやスマトラにいた兵隊たちの体験だ。書きぶりが、戦争の悲惨さや不条理なことを指摘していない。スマトラにいる間にみな太ったとか、現地の人たちと交流のあった様子など、どちらかというとのどかな感じで書かれている。井上ひさし氏ばりの「ふかいことをおもしろく」のように、つらかったことをなんでもなかったように淡々と語っているのかもしれない。
それはともかく、スマトラというのはインドネシアだ。インドネシアは長くオランダの植民地で、この戦争の時に日本がオランダを追い出し、日本の敗戦でオランダが戻ってきたが、スカルノが独立のための戦いをした。そのインドネシアの独立戦争に、結構多くの元日本兵が参加した。捕虜になることを嫌ったこともあったろうが、結果としてインドネシアの独立に寄与した。そういうこともあってか、インドネシアは比較的親日的な国だ。そういえば、自分の大学時代に同じクラスにインドネシアからの留学生がいた。王族の一員とのうわさもあったが、いつもニコニコして日本語が上手だった。
さて、本の中には問題になっている従軍慰安婦のことも少し書かれている。この地域では、商売目的で女性を集めてくる手配士的な男たちがいたらしい。問題はどのようにして連れてこられたかということであり、こういうのどかともいえる場所でなくガイサンシーのようなひどい事実もあったわけだから、これは商売だったなどと簡単に片づけてはいけない。
この本を読んで、インドネシア方面の戦いと戦後が事実としてどうだったかという視点から、少し中で紹介されている本を読んでみようかと思う。「残留日本兵の真実」林英一著など。その前に「何日君再来物語」を読む。