天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「サンダカン八番娼館」 山崎朋子

初版が発行されたのが昭和47年。私が大学時代だ。あの頃はこの種の本は手にしたことが無かった。小説ばかり読んでいたのを思い出す。明日、あの頃の友人に会うが、それはともかくとする。

この本は先日読んだ嶽本新奈さんの「からゆきさん」に触発されて注文した。ずいぶん前の本だが、著者の行動力が素晴らしい。「からゆきさん」の方は、論文を読み物にしたこともあってか、学者らしく大変よく調査をして近代史的にまとめてあるのに対して、こちらは現地潜入ルポのような本。
現地といっても当時の娼館が残っているわけではなく、からゆきさんだった人の家に泊まり込んで、戦前の当時の話を聞き込みをやり、その当時まだ生存していた人たちに会ったりした記録だ。
訪ねた先は天草のどこかの部落。そこで外国帰りの一人暮らしのおばあさんの家に3週間泊まり込んだ。その結果、目的を果たしたがすぐには本を出版することができなかった。3週間の間、おサキさんというそのおばあさんは、周りには息子の嫁として著者を紹介した。そうでないことは二人の間では自明であったが、周囲の疑いをそらすにはこれが一番都合がよかった。しかし、そうでないことは取材のために会った人のために疑いをもたれてしまう。その地域は、からゆきさんを多く出さざるを得ない貧しい地域で、からゆきさんを出していたことを恥のように隠していたのだった。なので、それを取材に来ているとわかれば反発がある。
この本の読ませどころは、明治から戦前までの東南アジアの娼館の実態がわかるのもさることながら、このおサキさんと著者との関係が興味深い。山崎朋子さんの取材を可能にしてくれたこのおサキさんの人となりが素晴らしい。それに引き換え、中に出てくるが外国に行って優雅な暮らしをして帰った人、今風に言えば海外の勝ち組が、身分意識の塊のようにふるまっている。この点、からゆきさん問題とは別に、現在でもいるタコの部類。悲しいかな、こういうのはいつの時代もいるんだ。
著者の結びは、からゆきさんのような存在を卑しみながら、日本がその拡大政策のために利用していたことを指摘している。為政者たちは、いつも弱いものを利用する構図がある。現在の日本も、格差社会でビンボーな若者を自衛隊と称する軍隊に入れて、戦争をさせる体制を作り、アメリカにへつらいながら軍需産業で儲けようとしているのではないかしら。