天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「郷土中国」徐坤

中国現代文学2に収められている、中国の現代小説。著者は女性作家で、1965年遼寧省瀋陽生まれ。
 話の内容は、若いころに妻と二人で田舎(場所は遼寧省)を出て都会に行き、よわい60にして息子の提起により里帰りをする模様が描かれているだけ。しかし、ここには中国の人が旧正月春節)を田舎に帰って家族や親せきと祝うことの意味することや、実情が書かれていてとても面白い。
 男が田舎を出たことについては、出てい行かれた家族の方は、当時経済的に一族を支えてゆかねばならない男が、勝手に出て行ったことで、その後大変な苦労を強いられ、本音は歓迎ムードではなく、何をいまさらという気持ちなのだ。怒りをおもてに出すのは主に女性たち。それでも、出て行った男の長男から連絡をもらい、なんといっても知のつながった甥からの電話にホロリと気分は優しくなる。
 結局皆で歓迎の宴会を催す。参加者が順に挨拶をして、酒宴は始まる。中国の宴会は最近はカラオケが必需品らしい。カラオケなどは憎たらしい小日本(シャオリーベン:日本人のガキ)が作ったもので、使うのも小憎らしいようだが、正月につきものの爆竹などは場所によっては禁止されていることもあり、カラオケによる景気づけが必要らしい。
 昔の恨みも忘れて親族一同が楽しむかと思いきや、客分である甥たちが酔った勢いで地元の女性達をバカにする発言をする。と、嫁ぎ先から歓迎の宴に来ていた叔母が切れる。切れて故郷を捨てたことについて、ビシッと指摘をし立場をわきまえさせる。それでも、そういうやり取りをしながら、中国の正月は親せきの皆が集まり、とりあえず久々で帰ってきたものも交えて一族の繁栄を祝うのだ。
 帰ってきた男たち(親子4人)はフォルクスワーゲンサンタナから降り立ち、黒皮のコートを来ており、いかにも田舎を出て成功している風体であるが、宴会で叱り飛ばしたおばさんは、宴席の支払いを済ませると嫁ぎ先の集まりにも参加しなくてはならないので、一足先に去ってゆくのであるが、BMWに乗って去る。このあたりの小説としてのウィットが何とも言えない。