「社会的共通資本」宇沢弘文著
この本は、「始まっている未来」という対談本の内容について、更に知りたく、対談者の一人宇沢弘文氏の本を手にしてみたという訳。
新書ながら、数学者出身の本格的経済学者が書いているだけあって、一般人に分かりやすく書かれながら、やはり専門的な部分もある。しかし、社会的共通資本とはどのような考えで、どのようなものを言うのかということは、よく分かったような気がする。
具体的に並べてみれば、農業と農村、都市、学校教育、医療、金融制度、地球環境といったものが社会的共通資本とされている。それがどうしたというと、これらのものは自由競争、商業主義、規制緩和、金儲けの材料から外されなくてはいけないということだ。そのような市場主義の下ではなく、適切な制度によってコントロールされる必要があるという考え方だ。
農業は自然環境や土地柄に即した産業であり、効率化を求める発想で生産性向上だけを是としてはならない。
都市は、人間中心の街でなくてはならない。車社会となった現代の都市が、人間疎外の様相を呈していることについて警告。
学校が商業ベースになってしまうと、競争だけを煽るような教育中心になったり、真の研究活動から離れて企業が儲けることに協力することを優先してしまう。
医療が商業主義になるのはもってのほか。点数制の医療報酬制度では、いい治療を行うための努力へのモチベーションが阻害される。
皆どれも、カネ儲けのための材料にしてしまっては、その本来のありかたから逸脱してしまうというわけだ。適正な制度が維持される仕組みがなくてはならない。
金融制度にいたっては、現在の経済不安の元凶が規制緩和の旗印の下に、行過ぎた金融業界が不適切な仕組みで金集めをしたからに他ならない。米国のサブプライムローンというものができた背景や仕組みについて、昨日のテレビでもやっていたが、これは、実に人間生活の実情を考慮しない、金融工学というらしいが、理屈だけで作った金融商品であった。
そして地球環境の問題は、経済効率優先で公害を垂れ流しにしてきたことについて、適切な制度が必要という主張。
すべて、ご説ごもっとも。制度でしっかりした枠組みを作らなくてはならない、というのはその通り。難しいのは、誰がどのようにどんな制度を作ることができるのか、ということだ。基本的には政府のお仕事というふうに考えられるが、利害関係が錯綜する政界では、簡単に物事が決められない。色々な立場の人たちが歩み寄って、できるだけ平等な仕組みを作ろう、という動きがなくてはできるものではない。
政策などを批判するのは簡単。しかし真の問題解決はそれほど簡単ではない。今、民主党の政策が色々取りざたされているが、ゴツゴツぶつかりながら、少しずついい方へ向かって行くことを期待せざるを得ない。