天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「この人から受け継ぐもの」井上ひさし著

 この本は誰だったか、TV番組のブックレビューで誰かが紹介していた本だったと思う。ネットで山本作兵衛氏の画文集「炭鉱に生きる」という本と一緒に買っている。
 紹介内容をよく見ないで、タイトルの「この人から・・・」のこの人は井上ひさし氏のことかと思ったら、そうではなくて氏が影響を受けた人たちのことを書いているのだった。それは、登場順に吉野作造宮沢賢治丸山眞男チェーホフだった。最終章では更に色々な人物が、笑いとか、喜劇、悲劇という視点から述べられている。アリストテレスからルイ16世、などなど。
 ここに出てくる人たちについては、実を言うとあまりよく知らなかった。こういう人なのだということをぼんやり知っていた程度。宮沢賢治は別。彼の作品は学校でも習ったほど広く世間に知られているし、その人となりに色々な面があることも聞いてはいた。
 チェーホフはロシア人であり、自分にとって情報量が少ないため、この本を読んで彼の作品を一つ二つ読んでみようかと思った程度であるが、日本人の三名の方々は自分と同じ日本という社会の中で活動した人達。なので、その生きざまや主張が外国人よりもより具体的に感じることができる。より広く知られている宮沢賢治の場合、若くして亡くなっていることや、躁鬱病的なところがあったことなどから、より完成された主張を持った生き方という感じはしない。しないからこそ、その志を僕らは受け継がなくてはいけない、というのが井上氏の言い分になっている。
 あとの二人は、一貫して自分の主張をした人であることが分かる。その主張に井上氏が共感しているからこそ、ここに本として紹介している。本と言っても、元は講演会などで話したことが記されている部分が多い。
 井上ひさし氏は、自分が影響を受けた、あるいは心酔した人のことを語ることで、自らの主張を語っているのだ。ここに出てくる人たちの共通点は、リベラルな考えの持ち主と言うことのほかに、わかりやすく語ろうとしたということもあるのではないか。井上氏はそこから更に進んで、笑いを取りながら人々に何かを訴えたり、世の中の矛盾をあぶりだしたりしようとした作家であると思う。井上ひさし氏から受け継ぐべきものをしっかり読みとることができた。
 かつて氏の小説を色々読んだこともあったし、遺作となった「一週間」も読んだが、物書きである井上氏がその表現媒体である日本語についても造詣が深く、色々書かれている。今度はそういったものも読んでみて、日本語教師志願としての素養としてみたい。