天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「街場の中国論」内田樹著

 この本は、タイトルに「街場」とあるので世間で言われるような割と安直な中国談義かと思ったら違った。著者は大学の先生で、学生に対して話した内容を本にしたものなので、中身の格調は高い。東京スカイツリーくらい高い。書きぶりが口語体で、語り口調なので読みやすくはあるが、流して読めるような軽いものではなかった。というのが印象。
 中の内容は盛りだくさんなので、いちいちここには書かないが、最後の部分で著者のスタンスが表現されている言葉を引用する。即ち、「人間は高みから世界を一望俯瞰していると思いこんでいるときに、最も深く自分自身の分泌する幻想のうちにとらえられる」。
 世に言う中国論議ではない。有りがちな論議は、中国の危機をあおったり、中国人の行動性癖を非難したりするものが多い。あるいは、中国好きの論調では、4000年の過去の歴史を踏まえた好意的な見方をする。これはどちらでもない。
 「街場」とした理由は、あとがきのところで分かった。即ち、中国専門家の書く中国論議の場合には中国の全ての面をくまなく踏まえたうえで現状を評価しなくてはならない。専門家がへたなことを書くと何を言われるかわかったものじゃない。専門家として保守的にならざるを得ない部分がある。これに対して、著者は中国については専門外である立場なので、思い切ったことが言える。専門家としての責任外のところで物を言わせてもらうということで「街場の」ということにしてあるらしい。しかし、著者の中国観察は行き届いている。と思う。少なくとも素人の自分にはそう見える。あるいは、その観察力の深さに憧憬する。
 著者もこの本の出来には満足されてるらしい。10年経過したら自ら読み返したいとのこと。私もそのようにしてみようか。と思わせるくらいのものだ。
 付箋を貼ったところを見返していたら、こんなフレーズがあった。
「有徳だが無能な統治者と、不道徳だが有能な統治者とどちらを選ぶ・・・」。これは日本の政治家には中国を統治できない、ということが書いてある部分に書かれていた。皆が菅さんをやめさせようとしているのは、どちらだからだろうか。
 中国の問題だけではなく、ものを考えるときに取るべきスタンスについても教わったような気がする。いい本だ。