天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「足の甲」 裘山山 著

 中国現代文学第4号を一気に読んだ。収録されている作家は、掲題の他に史鉄生、残雪など周知の作家を含めて数名。中でも今回、シンプルに面白かった作品がこれだ。ちょっと紹介しよう。
 時代は現代。富裕層の奥さんが自動車事故を起こし、慌てて旦那に電話をしてくる。仲間とマージャンをしている旦那の携帯電話が鳴る。事故と言っても、狭い場所で対向車をゆっくりよけたら、反対側にいた人の足を車で踏んでしまったというもの。マージャンをしていた旦那は負けが込んでいて、ポケットには五千元くらいしかない。と書いてあるが、五千元といえば百元札が50枚で、相当の厚みがあるはず。日本円では7万円以上の額である。物価水準の違う中国では大金のはず。1カ月の給料でもこれだけもらう人は、そんなにいないはず。私が昨年行きそびれた、大学の日本語教師の月給は三千元だった。
 ともあれ、事情を言ってゲームは中断。遊び仲間の友人は、心配して一万元を貸してくれる。そうして現場に駆け付けると、警察は来ていない。日本だとまず警察を呼ぶが、中国では大きな事故でなければ当事者どうして解決してしまう場合が多い。以前、広州でタクシーとバイクの接触事故を目撃したが、当事者同士が喧嘩をしてそれでおしまいだった。これも一種の当事者同士の解決方法だ。
 この物語の運転者は、運転に慣れていない奥さんで、被害者は労働者風の男。現場に駆け付けた旦那は、この事故で相手からいくら吹っかけられるかが心配でならない。ともかく病院へ行くことにする。救急車は来ない。自分の車で連れてゆくのだが、相手は近所の接骨医でなくて、ちゃんとした病院で診てもらいたいという。そら来た、と旦那は思う。
 レントゲン写真の結果、幸い骨に異常は無く赤くはれた足は、せいぜい7日ほど手当に通えば充分だろうという診立てだった。しかし、被害者の男は念のため10日くらいは治療が必要だという。そら来た、やはり吹っかける言いがかりを探していると旦那は思う。通院には交通費も要るし、と男は言う。旦那は治療費と交通費は勿論払うので、あといくらで解決するかが早く知りたい。いくら要求してくるかが気がかりだ。下手にこちらから少ない額を言って、相手の気分を害しては余計にふっかけられることにならないかと心配。そこで相手に言わせて、高額だったら値切る方がいいだろうと思う。
 そこで相手に解決のための金額を尋ねてみるが、向こうは「あんたから言ってくれ」という。そら来た、やはり言わせておいて不足を主張してつり上げる気だと旦那は思う。なので、とにかく相手に言うように頼むと、被害者の男は考えあぐねて「二百元くれ」と言った。旦那は、冗談か、からかわれているのかと、きょとんとすると、相手は高額な金額を言い過ぎて旦那が怒ったのかと思って二百元ほしい理由を言う。旦那の方は、「ではその倍の四百元を差し上げるので、これでおしまいにしましょう」と申し出て了解された。
 そのあとで、被害者は相手の車の番号をじっとみつめて、番号を覚えている。そら来た、いったん引き取っておいて後で警察にでも訴える気かもしれない、と旦那は心配する。が、男曰く、今日は足を踏まれたくらいでこんなにお金をもらって運がいい。その運がいい車のナンバーで、数字当ての宝くじを買うのだ。
 小説としてはオチもついて、はらはらさせる展開で面白く書かれているが、笑えない話だ。これくらい、貧富の差というか、格差のある人たちが同居している国が中国ということなのだ。