天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

「四雁川流景」

 玄侑宗久氏の短編小説が7編おさめられた本。玄侑氏は芥川賞作家であり、本業はお寺の住職。お坊さん作家はほかにもいるが、先日テレビで氏のことを見てからその作品を読んでみたくなった。すっかり悟った言動がスラスラとテンポよく出てくる。その人は一体どんな文章をかいているのだろう、という興味がわいた。

 期待を裏切らない、秀作が7編。どれも四雁川という川の流域に住む人たちのことを書いているという設定。7編のうち6編までが文學界に掲載されたもので、最後の「中州」という作品が三田文学に出ている。そう、この人は慶応大学の文学部を卒業している。専攻は中国文学だそうだ。
 もともと家がお寺で、後を継いだ形になっているが僧侶になる決心をするまでには紆余曲折があった。学生の頃から文学を志していたらしいが、ある方のアドバイスにより、家業のお寺と両方を行う道を選んだ。僧侶の修行、経験とそれまでの社会経験とが作品を書く下地になっている。両方がベースになったものであるからこそ、心に響くものとなっていると思える。
 「塔」という作品などは、ちょっとミステリー風で謎めいた感じがあって面白い。どれも、社会の中で苦労しているように見える人たち、あるいはアンラッキーな人たちの人間模様を描いているが、決して暗くはない。彼らへの理解と愛情が感じられる。暗くはないが、重くはあるというところか。
 最近読んだ短編集では、タレントの太田光氏の「まぼろしの鳥」というのがあった。やはり芥川賞受賞作家の作風と言うものとは相当違いがあるなと思う。比較の対象ではないかもしれないが、どちらも1500円ほどの価格だ。本の値段の評価は難しい。大きさや製法が同じだと同じような価格になるのだろうが、支払いをする方にとってはどちらが価値があったか。これも各人の価値観の違いということもあるので一概には言えないが、私的な軍配はどうしても芥川賞作家の方になるな。