天天日記

中国好きのまっちゃんで、書いていたはてなダイアリーを引き継いでいます。

光と風のクリエ 金大偉

 アーティストの金大偉氏が出した本。一種の芸術論。芸術論だが、社会の中で芸術とかアートとかが持つ意味、果たしている役割などについてリベラルに述べられているところがいい。

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 金さんを知るきっかけとなったのは、二胡の先生の沈琳さんだった。金さんの主催するコンサートを見に行った。二度あった。三度目は二胡奏者が別の人になっていた。

 コンサートの場所はいつも座・高円寺。初めての時に、分厚い本をもらった。「神道から見たヘブライ研究」というもので、ヒマになったら読む本。即ち読むことは無いかもしれない本としていた。

 それが、昨年になって今度は金大偉氏ご本人が本を出したので、イベントの時に安く売って頂いた。それがこちらの本だが、読み始めで興味をひかれたので、じっくり時間をかけて読んでいた。どんなことが書いてあるのか。付箋を貼った個所を振り返ってみよう。

 「音楽の基本の原理を発見すれば、あらゆる原理が理解できる」とはピタゴラスの言らしいが、そうなのか。音楽の基本の原理ってなんだ?ドレミとか、7音階とか5音階とかっていうレベルの話ではないに違いない。ともかく、音楽が人間の基本的部分に位置づけられるとされているので、二胡をやる意義も何か感じるかも、という訳で読み進んだ。

 「現代社会の発展は『退化しているがゆえの発展』」即ち、科学技術の進歩は人間の能力が退化される。これはそういうこととうなづける。自然と対話することなく、のほほんと生きるようになった。未開地域の人たちは別。

 「自発的なコントロール」つまり、生活環境が自分の考え方を大きく左右するので、自ら自分の生活のことなどを積極的に選んでゆかなくてはならない。

 今の歪んだグローバリズムについて「人がそれぞれ持っている、”違う”ものを活かせる社会になった時、そこで初めて、普遍性をもつ本当のグローバリズム的な意味が出てくるのです。」

 今のグローバリズムは、単に多国籍企業化を意味することが多い。これは、安い労働力を使うというだけの一種の搾取である。企業活動で得られる富は、一部の経営者と企業に蓄積されるだけで、労働者には行き当たらない。わずかな現金収入が得られるというだけ。

 金さんは、音と映像による統合芸術を目指しているが、「文化映像学に取り組むものは、自分たちがまっさきに『体験者』でなければならない」とする。そして中国各地へのフィールドワークの旅に出かける。

 「統合芸術は、社会の生活、生きる姿などすべてが含まれて、初めて統合芸術と言えるのですから、(中略)『価値ある共生の姿』がそこに現れているものが統合芸術である」「共生と共存の形が美しく調和された時に、はじめて統合芸術の地点にたどりつくのです。」

 「音楽においての『美』すなわち『力』とは、まさのに私達の魂を聖なる高みへと引き上げるような喜びと対話であると考えたい。」たしかに、音楽は演奏する側だけでなく、聴き手がいて対話なのだ。時に、聴き手が自分でもある。

 「大自然の力は人間の生と死を支えている。(略)生きることはまさに大自然によって育まれ、成長する心から発する純粋な営みであると思う。それは風のごとくに、雲のごとくに、そして柔軟性にあふれた水のように日々変化していくのだ。」

 訪問先のナシ族の村で、死者が出たときに「死を哀しむだけでなく、その人が幸せな人生を送られたと喜んであげることも大事です」と村の長に教えられたそう。

 「今、我々に必要なのは文化の整理や無理な切り捨てではない。むしろお互いを尊重し合うことなのだ。『文化』を整理すればするほど視野は狭くなり、混乱も増え、『自由』の姿は失われていく。だが『自由』というものに求められているのは、健全な自己管理や、謙虚な抑制によってこそ成されるものであると言うことを忘れてはならない。私達の世界において、新しいもの、古いものもすべてが大切であり、自分とは無縁なものは何一つ無いことを認識しなければならないのかもしれない。」

 巻末に、22編の美術・音楽評論が収録されている。各種の展覧会や演奏会などの紹介文書だが、金さんの芸術に対する見識の深さがよくわかる。その中に「ぬぐえぬ中国への憧れ チャイナドレス展」という記事の中の一文があり、中国好きのまっちゃんとしてはこれを最後に紹介したい。

 「中国は2千年にわたって、日本が仰ぎ見てきた文明大国で、常にアジアの中心的存在であった。漢字を用いる日本は中華文化圏の一員だったといえる。明治維新以降、欧米に目を向け始めたとはいえ、数多くの日本人の心から、中国への憧憬や愛着を消去することはできなかった。以降、画家だけではなく、大正時代には、文学者の芥川龍之介谷崎潤一郎らが、中国をテーマにした小説を次々と発表。また旅行手段の発達によって、海外に渡航しやあすくなったことから、美術界や文学界などで一連の中国ブームが始まったとも言える。」

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